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未完成の恋(番外編)
007


それから数日たった、ある晴れた日の昼休み。俺は数人のダチと一緒に中庭でパンを食っていた。こんな姿、久遠に見られたらまたバカにされそうだ。

「九ヶ島、どっちが勝つか賭けねえ?」

2年になってからつるみだした、アクセサリーを腕にも首にも引っかけてる男、長谷寺が俺にそう言った。長谷寺の横を見ると1年からの付き合いである畑本と瀬川が、取っ組み合いの喧嘩をしている最中だった。

「畑本に、グレープジュース1本」

俺がそう言うと長谷寺は、俺も畑本に賭けようと思ってた! とつまらなさそうにこぼした。これはアイツらがよくやってる遊びだ。7:3の割合でいつも畑本が勝つ。
勝負の行方を興奮しながら見届けるのも馬鹿らしくて、俺は携帯をいじりだした。いつもなら颯太にかまってもらうが、めずらしく弁当がなかった颯太は購買に昼飯を買いに行ってしまった。

「…杉崎、お前何してんの」

ふと横を見ると、俺の友人、杉崎はランチそっちのけで何かを凝視していた。

「邪魔すんな九ヶ島、俺は今ひなたちゃんの可愛い姿見て癒されてんだよ」

杉崎の視線の先を追うと彼の言うとおり、少し離れた場所に天谷ひなたがいた。隣には当然のように颯太の後輩、木月圭人の姿が。

「クソッ木月圭人め、人目も気にせずひなたちゃんとイチャイチャしやがって! お前なんか、全然釣り合わねえっつの!」

「杉崎、お前…」

コイツの天谷ひなた大好きっぷりは、もう見ていられないほどだった。お前はストーカーかとツッコミたい衝動にかられる。

「アイツ…、朝から晩までひなたちゃんの隣を独占しやがって、いくら付き合ってるとはいえ限度があるだろーが…」

お前は一体天谷ひなたの何なんだとききたくなるような言葉だったが、杉崎の言うことにも一理あった。颯太のこともあって木月の姿はよく見かけるが、そこには必ずと言っていいほど天谷がいる。たまたま校内で見かけることがあっても、どちらか片方がいないなんてことはない。

「確かに異常なほど仲良いよな、あのカップル」

「だろぉ!? 九ヶ島もそう思うだろ? 異常だって!」

杉崎にすがるようにぎゅっと腕をつかまれた。つくづく不憫な男だ。かなわぬ恋を続け、目の前で好きな人が他人とラブラブ。耐えられるわけがない。俺もこの学校で何人かのカップルを知ってるが、大抵学校の中では別の友達といたりする。いくら同じクラスとはいえ、ずっとベタベタ一緒にいるのは木月達ぐらいのものだろう。
まあ、確かにあんな可愛い恋人だったら、ずっと一緒にいたくなる気持ちもわからなくはないが。

けれど困ったことに、天谷の髪を飽きもせずなでていた木月が、ついじーっと彼らを見ていた俺達に気がついた。というより、目があってしまった。

「く、九ヶ島! なんか木月圭人こっち見てねえ!?」

「気のせいだろ」

「気のせいじゃねえって! 完全に俺と目ぇあってたもん!」

お前とじゃなく俺とだろ。…いや、木月のうざったい前髪のせいで正直、彼の目はよく見えないが。

「ど、どうしよう九ヶ島…!」

年下相手にみっともなくびびりだすチキン杉崎。コイツ多分、木月がいなくても天谷に告白なんて出来ない。
とそんなことを考えているうちに、木月が天谷に何か囁き、ゆっくりと立ち上がった。そして、そのままこちらに向かって小走りしてくる。

「うわっ、こっち来た! 何で? やっぱさっきの会話聞こえちゃった!?」

「落ち着け杉崎」

杉崎は俺を盾にして情けなくも後ろで縮こまっている。俺は気の弱い友のために代わりに言い訳してやろうと、木月を真っ向から見据えた。

そういえば、この男と口を交わすのは初めてだ。よく見かけるから知り合いみたいになっていたが、木月は一度も俺を見たことがなかった。それは俺にとって、かなり新鮮なことだ。
俺は少し緊張しながらも口を開いたが、なぜか木月はそのまま目の前を通り過ぎてしまい、俺達は固まった。

「颯太先輩!」

拍子抜けした俺達が振り向くと、そこに購買で買ったパンを入れた袋をひっさげた颯太が立っていた。

「おお、圭人じゃん」

颯太はとびきりの笑顔を木月に向け、嬉しそうにそう言った。どうやら木月は颯太に話しかけにきただけだったようだ。

「…っ何だよ、びっくりさせやがってぇ」

俺の隣でほっとしたように息を吐く杉崎。そして木月に聞こえていないことを良いことに、杉崎はまた性懲りもなく天谷への愛を語り始めたが、俺はろくに聞いちゃいなかった。



なんだか、どうにも、歯痒い。



……ん? 歯痒、い?
何で歯痒いんだよ、俺。別にいつものことだ。木月が颯太に会いに来た、ただそれだけ。歯痒くはねえだろ。つか、そもそも歯痒いってどういう意味だったっけ?

この胸に残るもやもやしたものの正体はよくわからないが、要するにアレだ。颯太と木月が仲良すぎるのがいけないんだ。奴らはもし颯太が完全なノンケだと知らなければ、付き合ってるんじゃないかと疑うぐらいの相思相愛ぶりだ。
俺は普段見られることに慣れすぎている。まわりは俺に対して好意を持っているか、俺を死ぬほど憎んでるか、そんな奴らばっかだ。それなのに木月は俺を完全無視、大好きな颯太先輩に一直線。俺には一瞥もくれない。つまりは、それに違和感を覚えているだけのこと。

そうして自分に芽生えた今までにない感情に見切りをつけると、俺は再び握っていたパンにかじりついた。


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