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未完成の恋(番外編)
002


俺の友達は、昔からガラの悪い奴ばかりだった。自分自身お世辞にも優等生とは言えないし、そういう連中と気があうのも確かだ。別に不満があるわけじゃない。だがこの高校に入学したその日、俺は意外な男に声をかけられた。

「お前、九ヶ島成瀬だろ?」

ソイツを、俺はずっと前から知っていた。名前は阿見颯太。よもや向こうも俺を知っていようとは。

颯太は中学時代、近隣中学の空手部の主将をやっていた男だ。もともと競技人口の少ない部。同じ県内の中学の空手部だった俺が奴を知るのに時間はかからなかった。
そして彼に興味を持ったのが3年の時の大会。俺がちょっとした暴力事件で出場停止になった大会で、颯太は優勝した。向上心も野心も持たない、ただ強くなりたかっただけの俺は特に悔しくもなかったが、颯太の名前は覚えた。勝つ自信はあったのに、その機会をなくしたことだけがショックだった。
高校が同じだったのは幸運だったが、あいにくここには空手部はないし、あったとしても俺には入部する気はさらさらなかった。それは颯太も同じだったようで、奴が話しかけてきたことで急速に縮まった俺らの関係に、改めて勝負しろ! などといって水をさすようなことはなかった。

「九ヶ島って、名前成瀬っつんだろ? 変わってるよな」

奴は友人歴2日目で俺の地雷を踏んだ。

「…俺はこの名前が嫌いなんだ。二度と呼ぶな」

友達になったばかりにしては冷たい言い方だとは思ったが、初めに釘を刺すのが一番だということを俺は経験上知っている。だが颯太は嫌な顔一つせず、笑顔を崩すこともなかった。

「そっかー、まあ九ヶ島が嫌なら呼ばねえけど。俺、好きだよ。その名前。何かカッコイイじゃん」

「…………」

こんな一言で名前呼びを許してしまった俺もどうかと思うが、颯太は今までにいない、他のダチとはまるで違う男だった。
裏表のない、いい奴だ。



「お前さあ…、よくそんなもん飲めるよなあ」

ある日の昼休み。2年になってまた同じクラスになった俺達はよく一緒にいた。颯太はその人に好かれる性分のおかげか俺の仲間にすぐ打ち解けたが、あくまで俺をはさんでのこと。颯太には俺以外にもたくさん友達がいた。

「なんで? おいしいじゃん、フルーツ牛乳」

颯太の持っている紙パックを見ながら俺は顔をしかめた。

「名前きいただけで吐き気がする。なんでわざわざ柑橘系と乳製品いっしょにすんだよ。意味わかんねえ」

俺に言わせりゃお互いの良いところを相殺してるような飲み物だ。砂漠で脱水状態にでもならない限り口にしないだろう。

「いいからいっぺん飲んでみ。うまいから。中学んときもさぁ、コレ苦手な奴いたんだけど、毎日根気良く飲ませてたらすぐ好きになったぜ」

「………気の毒に」

「何が?」

人懐っこい大型犬のような颯太の表情を見る限り、本当に何もわかってない。こういうところが少し困ったところなのだ。無駄に天然。嫌いじゃないが厄介だ。
颯太にブツを無理矢理飲まされる前に話を変えようとしたが、その必要はなかった。

「阿見! 1年が呼んでんぞ!」

クラスメートにそう言われ、颯太は立ち上がった。けれど颯太を呼んだ張本人は大人しく待ってなどいなかった。

「颯太先輩!」

その1年は、まわりの目をまったく気にせず、ずかずかと教室に乗り込んでくる。物怖じしない肝の据わった性格だ。

「圭人」

颯太は、圭人、という名前の後輩の頭をぐしゃぐしゃとなでた。ここから颯太の表情は見えないが、声の調子からしてきっと笑ってるに違いない。

「颯太先輩、俺ちゃんと入学したでしょう?」

“圭人”が言っていることはよくわからなかったが、多分颯太には通じるんだろう。どうやらかなり親密な関係のようだ。

「ああ、疑って悪かった。…つうか、お前がブレザー着てると何か変な感じだな」

「そうですか? 学ランしか着たことないですもんね。でも先輩はとても似合ってますよ」

その後もずっと周りそっちのけで2人の世界。チャイムが鳴った後もギリギリまで談笑していた。



「──誰? 今の」

後輩の姿が見えなくなってから、俺は颯太に尋ねた。

「中学んときの後輩」

「じゃあ、空手部か?」

「ああ」

「へぇー…、見えねえな」

よほどあの後輩が好きなのか、颯太は会話中ずっとにこにこしていた。いや、普段から四六時中笑ってるような奴だが。

「ああ見えてかなり強かったんだぜ? まあ、俺には一度も勝てなかったけど」

「ふーん…」

人は見かけによらないってのは本当らしい。今の1年、とても強そうには見えない。どこにでもいそうな、普通の男だ。まあ若干、前髪がうざったそうなのが気になったが。

「圭人がこの学校に来るなんて思わなかった。最初きいたときは驚いたよ」

颯太の表情に少し陰りが見えたので俺は眉をひそめた。けれどすぐに笑顔に戻った颯太を見て、気のせいだったかとそんなことすぐに忘れてしまった。


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