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未完成の恋(番外編)



姉貴と共に玄関に立つ人物を見て、俺は思わず我が目を疑った。
圭人が、いま天谷と自宅で楽しくやっているはずの圭人が、俺の家の玄関にいる。まさか、わざわざ俺に会いに来てくれたのだろうか。感動のあまり颯太の話を聞いてしぼんでいた心が、一気に復活した。

「圭人」

俺が圭人の腕をつかむと、姉貴が可愛がっているバカ犬が俺を見上げ唸り始めた。この犬っころ、姉貴が拾ってきてからもう5年になるが、懐く気配すら見せない。そればかりか目が合うたび威嚇してくる。姉貴は俺がイジめたと思い込んでいるようだが、そんなくだらないこと俺は間違ってもしちゃいない。

「あがってけよ」

少し落ち着いてきた俺は、段差と身長のせいで上目遣いになっている圭人に精一杯の虚勢を張る。…前髪が邪魔っ気で目つきは悪いが、可愛い。これが惚れた弱味ってやつなのか。

「いや、俺はこれを渡しにきただけで…」

「わあ、成瀬にプレゼント? じゃあ尚更あがってもらわなきゃ! お茶ぐらい出させて。ね? ほら、靴脱いだ脱いだ」

「え、あ…ちょ」

ナイスだ姉貴。そのお節介ぶりにはたまに嫌気がさすが、今回ばかりはありがたい。

「こいつ、俺の部屋に連れてくから、用意できたら呼んで」

「うん、わかった」

姉貴は圭人の足元にしつこく張り付いていたチョンピーだかチャンピーだかを抱き上げ、リビングへと向かう。俺は圭人の腕をとって二階の俺の部屋へと誘導したが、犬が気になるのかはたまた姉貴が気になるのか、圭人の視線はずっと姉貴が消えたドアへと向けられていた。










圭人は大人しく俺の部屋に入ると、床の敷物の上に腰をおろした。前回来た時はリビングで犬と戯れただけで帰っていったのに、どういう風の吹き回しだろう。

「お前のお姉さん、お前と全然似てねえんだな」

開口一番に姉貴のことを話す圭人に、俺はなんとなくこいつがこの部屋に来た理由を察した。うちの姉はどぎつい性格に反して見た目だけは清純派で、いかにも男が好きそうな容姿なのだ。圭人がその一員でもおかしくはない。…くそ、やっぱりどんなことをしてでも会わせるんじゃなかった。

「姉貴はやめとけ。あいつ、年上にしか興味ない」

「…はあ? 誰もそんなこと言ってねえだろ」

俺はベッドに腰を下ろしながら圭人の様子をうかがう。案の定、あぐらをかきながら不機嫌そうに俺を睨みつけていた。どうやら余計なことを口にしてしまったらしい。なんとか機嫌を直してもらおうと、俺は猫なで声を出し圭人に笑いかけた。

「ありがとな、圭人。俺のために家にまで来てくれて、嬉しい」

「別に…ひなたに行けって言われたから」

浮かれた気持ちが、一瞬でみるみるうちにしぼんでいく。
…圭人、天谷に言われたから来たのか。そりゃそうだよな。あの圭人が天谷との時間を投げ出してまで俺に会いにくるはずがない。

「これ、お前に」

圭人が先ほどからぶら下げていた袋を俺の前に差し出す。俺はそれを受け取り、袋の中をのぞき込んだ。

「ケーキだよ。俺が作った」

「マジで!! サンキュー圭人!」

手作り、と聞いて意気揚々と箱を開けた俺だったが、中身を確認した途端浮上しかけていた喜びがまたしてもしおれてしまった。圭人のケーキがひどかったわけじゃない。むしろプロが作ったみたいに綺麗で美味しそうだった。ただ…

「……ホールじゃない」

「はあ?」

圭人が俺の予想外の台詞に脱力している。俺だってここは何も言わずも笑顔で受け取りたかったが、颯太との件を聞いた後ではそれもできない。

「しょうがねえだろ、後はひなたが食っちまったんだから。別に丸くなくたっていいじゃねえか。ガキじゃあるまいし」

「そういう問題じゃない」

「だったら何だってそんな顔してんだよ! せっかく渡しにきてやったのに、ケーキじゃ不満だってのか?」

「……」

「クソッ、…もういい、俺は帰る」

呆れた様子の圭人は何のためらいもなく俺に背を向け、部屋から出て行ってしまう。けれど、俺はどうしてもその場から動くことができなかった。
本当は引き止めて、今すぐにでも押し倒したい。でも、そんなことをすれば今までの努力と我慢がすべて水の泡になってしまう。今度こそ、本当に圭人に嫌われてしまうかもしれない。
タイミングを間違えれば、圭人は俺に二度と心を開かなくなってしまうことはわかっていた。だから今日はこのまま帰した方がいいんだ。
そう決め込んだ俺が拳を握り耐え忍んでいたそのとき、部屋のドアが派手な音と共に勢い良く開き圭人が再び姿を現した。呆気にとられる俺に向かって、圭人は怒りの形相を浮かべがなり立てた。

「てめぇ、何で追いかけてこねえ!」

圭人の言葉の意味がすぐにはわからなかった俺はただただ、怒る圭人を茫然と見つめる。もしかすると、せっかく来てやったのに理由もわからず俺が落ち込んでるもんで、それが気にくわなかったのかもしれない。

「だってしつこくしたら、お前に嫌われんだろ」

「…はあ!? ふざけたことぬかしがやって。何があったか知らねえけど、今更いい人のフリなんかしてんじゃねえ!」

「……」

「〜〜ああ、クソッ!」

黙りこくる俺に圭人は悪態をつくと、ずかずかと俺の目の前までやってきて鋭い視線を上から浴びせる。そして油断しきっていた俺の口に、自分の唇を押し付けてきた。


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あきゅろす。
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