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未完成の恋(番外編)



なんとか天谷ひなたの追っかけ女子を撒いた俺は、近所のスーパーで手早く買い物をすませ、早々にひなたを家に招き入れた。昼は俺の作った焼きそばを2人で食べ、ひなたがもらったプレゼントの中身を冷やかしながらも確認する。中には高価そうな代物も含まれており、ひなたはすっかり困り果てていた。


「お前、そんなんいいからこっち来いよ。手伝え」

「でも…」

ひなたは明らかにブランド物っぽい高そうな財布をずっとちらちら気にしている。俺はそんなモテ男の背中を押し、無理やり手を洗わせた。
今から作るケーキはひなたへの誕生日プレゼントだったが、俺は贈る当人に手伝ってもらう気満々だった。そもそも俺はお菓子作りなんて専門外、ひなたにせがまれる意外では殆ど作ったことがない。

「そんなに気にするんなら、返しにいったらいいだろ。んな悩む必要ねえよ。ほら、早く生クリームかき混ぜろって」

「それはそうなんだけど…、なんか気が重くて」

ボウルに入った泡立て器を掴みぐるぐると回すひなたの手つきを見て、俺はちょっとイライラした。いくらなんでもトロすぎだ。そんなんじゃ、いつまでたっても生クリームは液体のままだろう。

「やっぱりお前は回さなくていい、かせ」

「あっ」

俺はひなたの手から泡立て器を奪い取り、思い切り素早くかき混ぜる。不満そうにふてくされていたひなただったが、特に何を言うでもなく俺の手元をじっと見つめていた。

「そういえばさぁ」

椅子に座ったひなたは何にも考えていないような表情で、事も無げに話し始めた。

「今日来た保健の先生、すごく若かったよね」

「保健の先生…?」

「だからー、始業式で紹介されてたじゃん。男の先生なんて珍しいなと思って」

「男子校だからじゃねえの。つか新しい先生とかいたっけ」

「圭ちゃんてばまた寝てたの? あの騒ぎに気づかないなんて」

「騒ぎ?」

「その先生が壇上に上がった時、みんなザワザワしてたじゃん。九ヶ島先輩が朝、登校してきた時みたいな感じ」

「なんだぁ? ソイツそんな顔が良かったのか」

「うん、すごく格好良かった」

何気ないひなたの一言だったが、俺はそれが酷く気になった。これはずっと尋ねたかったことを知る、いい機会かもしれない。

「なあ、ひなた。お前ってさぁ」

「なに?」

「男が…好きなのか」

驚きのあまり、ひなたは目をぱちくりとさせたまま、すぐには返事をしなかった。俺だって人の恋愛云々に首をつっこむのは好きじゃないが、ここまでモテる男が今まで彼女ナシなんて信じられない。しかもやっと好きだと言った相手が…あの九ヶ島なんて。
そんな複雑な感情を知ってか知らずか、ひなた特にためらいもせず話し始めた。

「別に同性が好きってわけじゃないよ。ただ少し、女の子が苦手なだけ。みんなパワフルすぎるから」

「そ、そうか」

ひなたの答えに、俺はちょっとだけ安心していた。男が好きというわけでもないのに、女が苦手なんて。親友のためを思えば不幸なことでしかないはずなのに、俺の中にはまだひなたを誰にもわたしたくないという気持ちが少なからずあるらしい。

「圭ちゃんも、男が好きってわけじゃないよね」

「…ああ」

いったい何が言いたいんだ、と俺はひなたをじっと見つめる。ひなたは顎に手をつきながらにやにやと笑っていた。

「ケーキ、九ヶ島先輩にも持っていってあげたら?」

「はぁ!? なんで俺がそんなこと」

「僕1人じゃ全部食べきれないだろうし。先輩、きっと喜ぶよ」

「……」

確かに、今日九ヶ島には悪いことをしてしまった。その埋め合わせをしたいとも思う。それにアイツに会いたい気持ちもある。でもせっかくひなたが遊びに来てくれたのに、九ヶ島にケーキを届けに行くなんて無理だ。

「圭ちゃん、それかして」

「え?」

九ヶ島のことを悶々と考えこんでいた俺は、ひなたに泡立て器をボウルごと奪われてしまった。すぐに取り返そうとしたが、ひなたにするりとかわされてしまう。

「おい、返せよひなた! お前じゃ永遠に生クリームにできないって!」

「大丈夫っ、圭ちゃんの混ぜ方見てたもん」

「見てたらできるもんじゃ…、あっコラ! クリームを舐めるな!」

ひなたといると楽しさのあまり、あっという間に時間が過ぎてしまう…はずだった。それなのにひなたが九ヶ島のことを持ち出してから、どんなに楽しい時間の中でも俺は奴のことが気がかりになってしまっていた。


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あきゅろす。
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