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未完成の恋(番外編)




「……で、何で成瀬がウチにいんの? 説明してくんない?」

「………」


圭人に冷たくあしらわれた俺は、長谷寺達にちょっと付き合ったあと直行で颯太の家に向かった。ごねる颯太を振り切って部屋に上がり込んだのだが、颯太ときたらいつもの優しさが嘘のように俺を邪険に扱い追い返そうとしたのだ。これにはさすがの俺も傷ついた。

「何でそこまで俺を追っ払おうとするんだよ。傷心の親友をちょっとぐらい慰めてくれたっていいだろっ」

「悪いけど、今日は大事な用事があるから無理。長谷寺達に相手してもらえ」

「あいつらは今頃女とよろしくやってるだろーよ」

ずかずかと颯太のベッドにあぐらをかいた俺は、カバンを床に投げ捨て颯太を睨みつける。俺をここに居させてくれという必死のアピールだ。意外と効果は抜群だったらしく、颯太はゆるゆると身体の力を抜いた。

「……成瀬、圭人に断られたのか?」

「……」

「やっぱりな。まあ、天谷君相手じゃ仕方ねえよ。今頃2人でケーキでも作ってんじゃねえの」

「ケーキ?」

「そう。俺が誕生日の時、圭人が作ってくれたことあるんだよ。こんなまーるいショートケーキ」

手で大きさと丸みをかたどった颯太が嬉しそうに微笑む。きっとその時のことを思い出しているのだろう。ちょっとだけ羨ましいし、妬ましい。

俺には今まで、圭人が自分を好きでいてくれているという絶対的な自信があった。だからいくら冷たくあしらわれても、めげずに何度も圭人に迫っていたのだ。しかしその自信が、ここにきて少しずつ揺らぎ始めている。圭人が今でも自分を好きでいてくれている保証など、どこにもない。むしろ冷静に考えれば、この目の前の“颯太先輩”の方がよっぽど好かれているように見える。

「…颯太は、圭人のどんな表情が好きなんだ」

「え? なんだよ急に…」

「やっぱり、笑ってる顔が好きか」

「そ、そりゃそうだろ。何言ってんだお前」

颯太の誠実な言葉に、俺の口から思わず笑みがこぼれた。そう、それがまっとうな考え方。それこそが人を想うということなのだろう。

「でも……俺は違うんだ。俺は、圭人の泣き顔が一番すきだ。ぐっちゃぐちゃに泣いてる顔」

俺は別に異常な性癖の持ち主なんかじゃない。圭人以外に、そんなこと考えたこともない。そればかりか、むしろ今までは涙なんて絶対に見たくないものだった。誰かに泣かれることが、俺はすごく苦手だったから。

「圭人のツラ見てるとおかしくなるんだよ、俺。…ずっと、我慢してる。いや、我慢してるからこんなこと考えるのかもしれな――」

一瞬で、俺の上半身がベッドの上に沈められる。颯太だ。颯太が俺の右肩を押さえつけて、膝で俺の左腕と腹を圧迫している。完全にマウントを取られていた。

「お、おい。颯太お前なにして…」

「成瀬さ、もしかして、俺が圭人を諦めてると思ってる?」

「えっ…。………違ぇの?」

「当たり前だろ。少なくとも、お前たちが付き合ってないうちはな」

あの日以来、たとえ俺の邪魔はしても颯太が圭人を口説いたり迫ったりするところを、俺は一度も見たことがなかった。諦めたとまではいかなくとも、諦める努力をしているものだとばかり思っていたのに。

「いいか、よく聞け成瀬。俺はお前が好きだが、今度もし圭人に何かしたらその時は絶対にお前を許さない。それを忘れるなよ」

めったにお目にかかれない颯太の冷たい表情に、俺は小さく頷いた。いつもた笑顔なだけに、無表情の颯太が無性に恐かった。たとえ一瞬でも颯太に恐怖を感じるなど、普通ならあり得ないことなのに。

「………こりゃあきっと、お前以上のライバルは現れねえだろうな」

軽口をたたく俺に颯太が笑い、やっと体重をかけるのをやめベッドから離れてくれた。圧迫から解放されて身体が軽くなるのを感じながら、俺は深く息を吐いた。颯太の顔はいつもの穏やかな表情に戻り楽しそうに笑っている。

「まあ、俺はある意味成瀬をリードしてるのかもしれねえ。俺は圭人からキスされたことあるし」

「はあ!? う、嘘だろ!? いつ!? どうして!?」

「さーな」

あの、あの圭人が颯太にそんなことをしてたなんて。…知らなかった。圭人は俺のキスに応えてくれたけど、圭人から俺にキスしてくれたことなんて一度もないのに。

「も、もしかしたら俺、本当は全然圭人に好かれてないのかも……」

…やべぇ、これは本気でヘコむ。圭人はなんだかんだでいつも俺に付き合ってくれてたけど、だからといって圭人が俺に惚れてることにはならない。現に今日だって1年で1番大切な日だというのに、俺は女を出し抜くために利用されただけだった。

「くそっ、なんだってんだよ圭人の野郎。俺が馬鹿みてえじゃねえか…!」

俺がベッドの上でシーツに顔をうずめながらぐずっていると、颯太が少しばつの悪そうな顔をして俺の頭をなでてきた。

「あのなぁ、成瀬。俺が圭人にアピールしないのは、アイツを傷つけた俺にはその権利がないからだ。本当は成瀬にだってないんだぞ。そんなお前を、俺が本気で止めないのはどうしてだと思う」

「え…。ゆ、友情とか?」

「アホか! 何で成瀬はそう妙なとこで馬鹿なんだよ」

アホ呼ばわりした上に結局答えをおしえてくれないまま、颯太は俺を無理やりベッドから引き剥がした。こいつ、いよいよ俺を閉め出す気だ。

「頼むから今日は帰ってくれ。弟が帰ったら一緒に出かけなきゃならないんだ」

「はあ? そんなどうでも良さげな理由で俺を追い出すのか!? このブラコン!」

「どうでもよくなんかないんだって!」

その後、俺は最後の最後まで粘ったものの、弟が帰ってきたことを皮きりに外へ追い出されてしまった。結局、俺は胸にしこりを残したまま1人家に帰るしかなかった。


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