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未完成の恋(番外編)



始業式を終えた俺達が昇降口を出ると、そこにはとんでもないものが待ち構えていた。男子校に通う男の身としては希少価値の高い、女子高生の集団が校門付近に集まっていたのだ。

「うわぁ…」

女を見てげっそりした声を出したのは、すぐ隣にいたひなただ。あの女達はきっとこいつ目当てに違いない。だがひなたももまさか大人数で学校に押しかけられるとは思っていなかったのだろう。何ともいえないビミョーな表情になっている。

「早く行ってやった方がいいんじゃねえの」

「…僕を待ってるわけじゃないかも」

「まさか。今日が誕生日のプレイボーイが他にいるか?」

「九ヶ島先輩かもしれないよ。本人にその気がなくても、モテるだろうし」

「でもアレ、中3のとき同じクラスだった竹永じゃん。ほら、チェックのスカート穿いた茶髪のロング」

「似てるだけだよ」

現実を受け止めようとしないひなたに辟易しながら、俺は校門に向かって歩き出した。ひなたも俺の陰に隠れながら後ろをピッタリ付いてくる。下校中の生徒達は、何事かとひなたを待ち構えているであろう女子達を、じろじろと物珍しそうに見ていた。俺達は彼らに混じりながら障害物をかわそうとしたが、それは所詮ひなたには無理な話だった。

「あっ、ひなた君! 久しぶり〜! 会えて良かったぁ」

甲高い声でひなたを呼び止めたのは、遠慮と常識はないが綺麗な顔をした中学での同級生、竹永だ。ひなたのファンの中心的存在だったように記憶している。

「あ、竹永さん。久しぶりだね」

さっきまで他人のふりをしようとしていたくせに、ひなたは竹永に愛想の良い笑顔を見せた。その瞬間、周りにいた女子達が手を取り合ってはしゃぎ始める。当然ながら俺は空気らしい。

「天谷君、お誕生日おめでとう! いきなり押しかけてごめんね」

そう申し訳なさそうに謝ったのは竹永ではなく、その隣にいた別の女子だ。こいつにも見覚えがある。確か名前は…藤原だったか。

「私達、天谷君にプレゼント持ってきたの。良かったら受け取って」

「そんな、悪いよ。何もお返しできないのに」

「いいんだって、好きでやってるんだから」

けして笑顔を絶やさない藤原に、ひなたも始終ニコニコ笑い続ける。こいつは前から女にしつこく追いかけられるタイプの男だった。ただ単に綺麗なだけでなく、どうも押しに弱そうな顔をしているのだ。そして実際押しに弱いひなたは、今もあっという間に流されて彼女達からプレゼントを受け取っていた。

「ね、これから私達と遊びに行こうよ。会ったの久しぶりなんだしさぁ」

ひなたの手をさりげなく握った竹永が、とんでもない提案をしてくる。困ったような顔をしたひなたはすぐに断ったが、相手もなかなか諦めてはくれなかった。

「なんで? なんで駄目なの? いいじゃん今日ぐらい」

「でも、今日は予定があるから…」

そう言ってひなたは、完全に存在を失っていた俺にちらりと視線を送る。それを追うようにして竹永も、今まで無視しきっていた俺を視界に入れた。

「じゃあ、そこの友達も一緒でいいから。ね?」

2年間同じクラスだった男をそこの友達と表して、竹永はひなたを無理やり引きずり込もうとする。俺はその間、どうすればこいつらから逃れられるかを考えていた。女達はどれも見た顔ばかりで、制服は違えど皆きっと中学でのファンクラブの連中だろう。だからきっと竹永を納得させられれば、全員追っ払えるはずだ。

「そこの友達って…これ圭ちゃんだよ。ちょっと姿形変わってるけど」

「えっ嘘! 木月くん!?」

一気にざわめく女子達。どうやら奴らは俺だと気づいてなかったようだ。だが無理もない。中学の時の俺は女どころか、(ひなた以外の)男とすら殆ど親しくしたことがなかったのだから。

「うっそマジで!? これが木月圭人?」

「ちょっと! そんな言い方駄目だよ。…き、木月くん雰囲気変わったね。かなり、すごく」

「うん、話しかけやすくなってるー。逆高校デビューってやつ?」

「だから駄目だって! ちゃんと言葉選んで!」

「……」

竹永と藤原が俺の見た目で予想以上に盛り上がり始めた。確かに髪型は変えて黒染めもしたが、それ以外は中学時代と同じだと思うのだが。

「ひなた、俺ってそんなに変わったか?」

「う、うーん…まぁ結構――」



「圭人!」

なぜか話しづらそうなひなたが俺の顔をじっと見つめてくる。そして何かを答えようとした矢先、俺達の後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


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あきゅろす。
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