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未完成の恋(番外編)



考え事をしていて、うっかりサボり損ねた始業式の後、俺は教室の窓から校門前を見張っていた。圭人に会うためには、もう帰りがけのアイツを捕まえるしかチャンスはない。幸い俺の教室は1階で、靴さえ用意していればすぐに飛び出せる。気分はすっかり獲物を狙う肉食獣だ。

「あれ〜? 九ヶ島帰んねえの? つか何見てんの」

いつもヘラヘラしている畑本が瀬川を引き連れ俺に話しかけてきた。ハンターになりきっていた俺は、奴を徹底的に無視することにした。

「うわ、すげぇな。これ何だよ一体」

今までサボっていたらしい長谷寺の大げさな声に、俺は思わず反応しそうになった。奴が言っているのは、今日俺の靴箱やら机の中やらにいつの間にか入っていたプレゼント達のことだ。

「今日、九ヶ島誕生日なんだとよ」

「うそ、今日? もっと後じゃなかったっけ」

「俺はずっと4月だと思ってた。え、じゃあ九ヶ島って乙女座?」

あわねぇー! とゲラゲラ笑いころげるいつもの3人組。上から瀬川、長谷寺、畑本だ。クラスメートでいつもつるんでる男の誕生日も知らない俺の友人達。まあ、そういう俺も奴らの生まれた日なんか覚えてないけど。
俺は一瞬視線をプレゼントに向け、長谷寺達に提案した。

「欲しいならコレ全部やるよ。勝手に持って行け」

「マジで!? ラッキー!」

「でも差出人の名前書いてないヤツには手ぇ出すなよ。あと食いもん系も」

「何で?」

「俺は恨まれてるからな」

ははあ、と見透かしたような顔で長谷寺はニヤリと笑った。昔から差出人不明の贈り物に俺は殆ど手をつけない。だが今回はいつも以上に慎重だった。俺に喧嘩で負けた奴はもちろんのこと、そこには俺がふった相手も含まれているのだ。諦めてもらうために、俺は彼らにかなり酷いことも言った。恨まれても仕方がない。

「かわいそうな九ヶ島に、これやるよ」

そう言って長谷寺が鞄から取り出したのは小さなチョコだった。誕生日プレゼントのつもりなのだろうが、よりによってチョコとは。俺のトラウマを絶妙に刺激してくれやがるな。

「ありがと」

いつ買ったのか怪しい代物だが、チョコなら腐ってはいないだろうと俺は表面上、笑顔で受け取った。

「いいってことよ。我らが九ヶ島様の生誕記念だからな」

「俺もなんかねぇかな…あ、あった」

瀬川がポケットから見つけたのはアメ玉1個。同じくいつ買ったのかは不明だが、嬉しいだろ? と言わんばかりの瀬川の表情に俺は引きつった笑みを返し、アメを受け取った。

「颯太〜、お前もかわいそうな九ヶ島くんにプレゼント恵んでやってくれよ」

帰り支度をしていた颯太に長谷寺が声をかける。呼ばれた颯太は手早く支度をすませ、笑顔で俺の席までやってきた。

「実は俺、もう買ってあるんだよ。あやうく渡すの忘れるところだった」

「「マジ!?」」

「はい、これ」

驚く皆の前で、颯太が長方形のチェックの包装紙でラッピングされた適度な厚さのものを取り出す。

「さすが颯太! ありがとな〜」

この時ばかりは、俺も校門を見張るのも忘れて颯太からのプレゼントに飛びついた。贈り物もそうだが、純粋に颯太が俺の誕生日を覚えていてくれたことが嬉しかった。

「これ…」

ラッピング用紙から出てきたものは一般的な大学ノートだった。よくある五冊にまとめられた、文具店には必ずありそうな感じの。誕生日プレゼントとしてはかなりおかしな代物だったが、俺と周りの友人は反応に困った。颯太が大真面目な顔をしていたからだ。

「使うだろ? あ、やっぱB5の方だった?」

「いや、サイズは何でもいいんだけど」

「なら良かった。誕生日おめでとう、成瀬」

「…ありがとう」

「じゃ、また明日な」

めずらしく慌てた足取りで教室を出て行く颯太。彼の姿が見えなくなった途端、全員顔を見合わせた。

「…ウケ狙いか? これ」

「違うだろ。目がマジだった」

「九ヶ島意外と頭良いし、ノートも真面目にとってるからな〜」

そう言った畑本は鞄から茶色い袋を取り出し、俺に押し付けてきた。

「実は俺も用意してたり」

「うそ、マジかよお前…」

俺と皆がいっせいに畑本に注目する。こいつはこんなイベントにプレゼントを用意するような奴じゃない。
俺がろくにラッピングされてない茶色い紙袋の中身を覗き込むと、そこには信じられないようなものが入っていた。

「おいコレまさか…」

「あれ、お前使ったことないの? 大人のオモチャ」

実に楽しそうな面をして俺の耳元で囁く畑本。俺はすぐさまそれを突き返そうとしたが、奴に止められてしまった。

「い、いらねえ!」

「何でだよ、せっかくネットで注目してやったのに」

俺は圭人に会うまで性欲の薄かった男だ。こういった物に、まったくといっていいほど興味がない。というか、高校生が簡単に持つもんじゃねえだろ!

「いいじゃん。ご執心の圭人君に使ってやれよ」

「な――」

これを、圭人に、使う!?

何てこと言うんだと奴の首を締めようとした時、窓に目を向けていた瀬川が驚きの声をあげた。

「おい見ろよ! 校門に女が集まってんぞ!」

「マジ!?」

瀬川の言葉に畑本達も窓から身を乗り出す。当初の目的を思い出した俺が校門を見ると、確かにそこには、この学校ではまずお目にかかれない数人の他校の女達がいた。

「何しに来たんだろ…。ここ女なんてめったに寄り付かねえのに」

「九ヶ島に会いに会いきたんじゃねえの? 今日、誕生日だから」

「マジかよ!? てめぇ、女友達いないって言ってたくせに! おい、ずるいぞ男前! 紹介しろ!」

「俺じゃねえよ馬鹿。知らない顔ばっかだ」

騒ぎ出す男共を見て、こいつら女もいけたのかと少し驚いた。ちなみに俺には女の知り合いは皆無といっていい。ここに入る時にほとんど手を切ったからだ。

「じゃあ、アレ何…?」

瀬川の疑問に賛同しようとしたその時、ずっと待っていた目当ての男の姿が俺の目に飛び込んできた。


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