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未完成の恋(番外編)



俺、木月圭人と親友である天谷ひなたは普段一緒に登校しているが、お互い特に待ち合わせをしているわけではない。ひなたも俺も毎日同じ時間に家を出るため、自然と合流する形になるのだ。しかし誕生日である今日、なぜかそこにひなたの姿はなく、俺はいつもの並木道を1人歩きながら言いようのない不安を感じていた。電話をかけようかとも思ったが、約束していたわけでもないのにそれは大袈裟すぎる気がした。

「圭ちゃーん!!」

携帯とにらめっこしていた俺の後ろから、ひなたの脳天気な声が聞こえる。心配して損した、とため息をつき振り向くと、そこには重そうな紙袋をぶら下げ、走りづらそうにしているひなたの姿があった。

「おはよう! 今日は圭ちゃんと一緒に学校行けないかと思ったよ〜。途中…色々あって」

「色々ってのは、その袋のことか?」

「う、うん…」

困ったような顔で頷くひなたに、なんとなく状況を察した俺は紙袋の中を覗き込んだ。 そこには案の定、可愛くラッピングされたプレゼント達が山のように詰め込まれている。

「誰にもらったんだよ」

「えっと、同じ中学の子とか近所の人とか。知らない人からのもあるよ」

「何で他人がお前の誕生日知ってんだよ」

「さぁ?」

「さぁ、って。お前もうちょっと危機感持てよな。ストーカーみたいなもんろうが。こんなもんホイホイもらいやがって」

「でも、くれたの女子高生とか顔見知りのおばさんとか、みんな女の人だし大丈夫だよ」

「…そうかよ」

その押しに弱そうな見た目のせいで、女子に無理やり連れて行かれそうになった経験があるにもかかわらず、ひなたは女相手には相変わらず警戒心ゼロだった。確かにうちの学校の野郎共よりは安全だろうが、行き過ぎたストーカーが現れやしないかと心配せずにはいられない。
中学の時からひなたの人気っぷりは凄まじいもので、ファンクラブなんてものまであったぐらいだ。優しい性格に目を引く中性的な容姿、女がほうっておくわけがない。だがその一方で物を盗まれることもしょっちゅうで、いい加減うんざりしたらしいひなたは近場の男子校へ進学することを決めたのだ。まさかそこで、今まで以上に苦労することになるとは、もちろん知らずに。

「その紙袋どうしたんだ」

「カバンに入りきらなくて、親切な駅員さんがくれたんだ」

「へぇー」

ここまでくるといきすぎだが、女にモテるひなたを羨ましいと思う心がまったくないわけではない。しかし肝心のひなたは、中学時代のアイドルのような扱いに疲れきって女が苦手ときている。ある意味不幸な男だ。

「そういや、俺の送ったメール届いたか?」

「うん! 12時ぴったりにきたからびっくりしたよ。ありがとう、圭ちゃん」

誕生日メールなんて、もちろん誰にでもやってることじゃない。ひなたは特別だ。ひなたが生まれてきたことに誰よりも感謝しているのは自分だ、という自信が俺にはある。

「ひなた、ちゃんと着替え持ってきたか? 寝間着は貸すけど下着は貸せないからな」

「ちゃんと入れてるよ! 歯ブラシも持ってきた」

今日は、かなり久しぶりにひなたが泊まりに来る。あの殺伐とした部屋が今夜は明るくなるのかと思ったら嬉しかった。

「おばさん、よく許してくれたよな。お前の誕生日祝いたかったろうに」

「圭ちゃんだったらいいよ、って。妹はケーキ食べられないから怒ってたけど。…あ、そうだ圭ちゃん」

「ん?」

今までにこにこしていたひなたが、急に表情を暗くさせる。ひなたは話しづらそうにしながら、ぼそぼそと呟いた。

「本当に今さらなんだけど…僕、今朝になって思い出して。実は僕の誕生日って、九ヶ島先輩と一緒なんだよね…」

「ああ、らしいな」

俺のしれっとした返事にひなたが目をまん丸くさせる。思わず頬ずりしたくなるほどの愛らしさだった。

「知ってたの!?」

「本人が言ったんだよ。今日、誕生日だから一緒に出かけようって」

「で?」

「で、って…。断ったに決まってんだろ」

「何で!」

うわ、ひなたが怒ってる。何でって普通訊くか? こっちが何でって感じだ。

「九ヶ島よりひなたの誕生日を祝いたい。ただそれだけだろーが」

「でも、せっかく先輩に誘われたのに。僕、やっぱり今日は…」

「俺、お前へのプレゼントにショートケーキ作ってやろうと思ったんだけど、いらないのか」

「いる!」

「じゃあウチ来るよな」

「う、あ…えと」

俺は自分の中でなにやら葛藤しているらしいひなたの肩に手をおき、思いっきりしょげた顔をしてやった。

「俺がこの日のために、どれだけ準備してきたと思ってるんだよ。お前はそれを無駄にする気か?」

「…ううん、僕行く! 絶対行くよ!」

「よし」

ひなたの心遣いはもっともだが、俺の計画を台無しにしてまで九ヶ島と過ごしてやる気はない。それに奴だって、別に俺がいなくても友達なり何なりいるはずだ。

「放課後、帰りに夕食の買い出し行くからな。ケーキの材料は買ってあるし、昼はなんかテキトーに作る」

「やった! 圭ちゃんの手料理おいしいもん!」

笑顔の戻ったひなたに俺は安堵し、いつものように2人並んで通学路を歩いた。ひなたが喜ぶならそれでいいと思っていたはずなのに、話してる間も脳裏には九ヶ島の事がちらつく。今日は始業式だけで会えないかもしれないから、メールくらいしてやれば良かったかなと少しだけ後悔した。


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あきゅろす。
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