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未完成の恋(番外編)
018


次の日、俺は長谷寺、瀬川、畑本と一緒に体育館裏で授業をサボっていた。理由はただ単に授業に出たくなかったってのもあるが、やれ何組の誰を殴っただの、何高の誰をボコっただの、そういう話をするためだ。教室ではそんな話は出来ない。なぜなら、颯太がいるからだ。颯太だって俺達が喧嘩してるのは知ってるが、それはふっかけられて仕方なくだと思っている。俺はそうともいえなくはないが、ここにいる俺の連れは違う。喧嘩と血を見るのが大好きで、わざと他クラスや他高に勝負を挑んでる。血気盛んな連中だ。

「九ヶ島さあ、最近つれねえじゃん。何かあったのか?」

俺の様子を気にしていたらしい畑中が心配して声をかけてきた。自己嫌悪に染まっていた俺には、まともな返答は出来なかったが。

「おい、どうしたんだよ九ヶ島。らしくねえ」

「お前がそんな暗いと変な感じするだろ」

長谷寺と瀬川も声をかけてくれるが、俺の心は沈むばかりだ。先が見えない。どうすればいいか、わからないんだ。

「…あのさ、1つ訊いてもいいか?」

俺は特に何も考えず、何の気なしに質問する。みんなは黙って俺の言葉を待った。

「─俺って、優しい奴か酷い奴かっていったら、どっちだと思う?」

我ながらなんて質問だ。自分探ししてる奴じゃねえんだから。ダチだってそんなこと訊かれたら困るに決まってる。

「く、九ヶ島…」

瀬川が俺の肩を叩き震える声で名前を呼んできた。どうしたのだろうと瀬川の顔を見ると、驚いたことに奴は笑っていた。

「なっ…なんだよ。そんな笑うことないだろ!」

瀬川だけじゃなく、他の奴らまで笑っていた。腹を抱えて馬鹿みたいにゲラゲラと。

「お前、バッカじゃねえの…!?」

「今更、何!?」

「自分が優しいとか、本気で思っちゃってる訳?」

口々に好き勝手なことを言う3人。無性に殴りとばしたくなった。沸々と怒りがわいてくる。

「九ヶ島ぁ、お前のどこに優しい要素があるんだよ」

「喧嘩ふっかけてきた奴らボコボコにしといて、よく言うよな」

畑本と長谷寺の物言いに俺はカチンときた。

「でも、それは向こうから来た訳だし…。そんな不良相手に優しい方がおかしいだろ」

確かに喧嘩の相手には容赦しないが、それとこれとは別な気がする。長谷寺達があまりにも笑うので俺がむすっとしていると、畑本が俺の肩に腕をまわしてきた。

「あのな九ヶ島。いくら相手によって性格変わってたって、お前っつう人間は1人なんだから、本性は変わんねえよ」

どこか諭すような言い方をする畑本に、俺は眉を顰めた。奴の言いたいことはわかるが、俺の本当の姿を勝手に決めてることが気に入らない。
それが顔に出ていたのか、長谷寺が俺を見て楽しそうに笑った。

「よく聞け九ヶ島、優しい奴ってのはな、他高の生徒を平気でつるし上げたり、道端で絡んできた奴らを半殺しにしたり、命乞いしてる男の顔を笑って踏みつけたりしない奴のことを言うんだよ」

「………」

俺の過去の遍歴をペラペラと並べ立て、長谷寺は満悦顔だ。なんか本格的に腹がたってきた。けれど俺が文句を言ってやろうと長谷寺に顔を向けた時、視線の先によく知る人影が見え、俺の体は固まってしまう。
その男の顔は間違えようがなかった。木月圭人だ。どうしてここにいるんだ。

「だいたい九ヶ島、急にどうしたんだよ。変なこと言い出して。何かあったのか? …あ、そういや──」

長谷寺が木月の存在に気づかないまま、訝しげに話し続ける。長ったらしい前髪のせいで確信はないが、一瞬木月と目があったような気がした。

「九ヶ島さぁ、1年の天谷ひなたと付き合ってんだってぇ?」

お前、なんでこのタイミングでその話だよ。俺は長谷寺の間の悪さに怒りさえ感じた。すぐそこに木月がいるってのに。

「ああ」

つい機嫌が悪いのが丸出しな声を出してしまう。だが長谷寺は俺の異変には気づかなかった。

「いいよなー、九ヶ島はモテモテで」

「天谷ひなたって、あのチョーかわいい1年だよな!?」

何やら楽しそうにはしゃぎだす瀬川と長谷寺。どうやら天谷をそういう目で見ていたのは、杉崎だけじゃなかったようだ。

最初こそマズいと思っていたものの、俺はいま木月がここにいる状況は、かなり好都合なことではないかと思い始めていた。木月に気持ちを伝えなければ何も始まらない。問題はそのきっかけをどう作るかだ。
俺がここで自分から話しかけるなんてことは出来ない。かと言って何もしなければ一生このままだろう。

「くそー! あんなカワイコちゃん一度でいいから抱きてえー!!」

どうしようかと悩む俺に畑本の冗談めかした言葉が聞こえる。その瞬間、俺は気がついた。

簡単なことだ。俺から話しかけられないのなら、木月が俺に話しかけるようしむければいい。そのためなら、手段は選んでいられない。

俺は気づかれないようにチラッと木月を盗み見てから、口角を上げ歪んだ笑みを見せた。


「まぁそう僻むなって。飽きたらお前ら全員に、好きなだけヤらせてやるよ」


俺がそう言ったときの長谷寺達の顔といったら、そろいもそろって口をあんぐり開け信じられないと言わんばかりだった。今まで俺がそんなことを言ったことはなかったし、ジョークかどうかはかりかね、笑うべきところか迷っているようだ。


こういうのは俺の柄じゃない。だがまあ、たまにはバケツの水をかけてみるのも悪くないはずだ。


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あきゅろす。
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