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未完成の恋(番外編)
016


ずっと木月に抱いていた感情の正体に気づいた後も、俺は今までの暮らしを続けていた。セフレとも呼べる男達と過ごす毎日だ。それはもう、別れてもらうのに苦労するからという理由ではなく、自分の意志だった。木月は所詮他人のもの。手には入らない。その虚しさを埋めてくれるのが彼らだった。
我ながら、最低だと思う。でもアイツらは俺に好かれていないことを知ってる。はっきりと言ったんだ。だからこれは、アイツらが望んだ姿。お互いの利害が一致した結果だ。
木月への気持ちを忘れたわけじゃない。でもまだ努力すれば諦められる程度だ。
恋人がいても、本来なら奪うという方法もあるのだろうが、彼らに限ってそんなことは出来なかった。俺にあの2人の関係が壊せるとは思わないし、壊したいとも思わない。
俺はこの時点で、木月圭人のことは完全に忘れるつもりだった。


けれどある日、そんな俺の生活を一変するような出来事が起きた。

「なあ、成瀬」

「なんだよ」

颯太がにこやかな顔をしながら、ふて寝していた俺に声をかけてきた。彼はその表情を崩さないまま俺の前の席に腰をおろした。

「成瀬はさ、もし今誰かに告白されたら、どうする?」

「は?」

颯太がいきなり変なことを聞いてきた。質問の意図がまったくわからない。

「…そりゃ断るに決まってんだろ」

自分がしてることは間違いだと、俺が一番よく知っている。これ以上過ちを増やすことは出来ない。

「そっか…」

微妙に言葉を濁して意味深な顔をする颯太。いったい何だっていうんだ。

「どうしたんだよ急に。何が言いたい」

颯太は、俺が今付き合っている男と別れる努力をしなくなったことに、疑問を持っているはずだ。ただ、何も訊いてこない。そういうことに口をはさむべきじゃないと考えてるんだ。だから余計に颯太の考えてることがわからなかった。

「呼び出しだ成瀬。今日の放課後、体育館裏に」

「なんだって?」

颯太の言う呼び出しの意味が、俺にはすぐにわかった。頭をかかえる俺の肩に、颯太が励ますように手をのせる。俺はため息をついた。

「何でそんな伝言頼まれたんだ。俺の状態知ってんだろ? お前の方で断ってくれりゃあ良かったのに」

颯太を責めるのはお門違いだとわかっていたが、また目の前で泣かれるのかと思うとうんざりした。一気に気分が憂鬱になる。

「悪いな、どうしても断れなかったんだ。それに告白ぐらい、聞いてやるのが礼儀だと思うぞ」

他人ごとだからそんなことが言えるんだ。颯太が正しいのはわかってるが、だからこそ俺のイライラは募るばかりだ。

「…わかったよ。で、相手は誰だ」

「大物だぞ」

場の空気にそぐわない笑いを見せた颯太は、俺に顔を近づけまるで内緒話をするみたいに言った。

「噂の淡麗美少年、天谷ひなた」

「は、あ!?」

嘘だ、そんなの。だって天谷は、

「アイツは木月と付き合ってんだろ!? なんで俺なんかに告白すんだよ!」

もしかして別れたんだろうか。いやまさか、そんなはずない。そんなこと有り得ない。

「あー…やっぱり成瀬もそう思ってたか」

「どういう意味だよ」

俺が説明しろとばかりに睨みをきかせると、颯太は俺をなだめるため手をかざした。

「落ち着けって。木月と天谷はただの友達。最初から付き合ってなんかいねえ」

「う、嘘だろ…!?」

衝撃すぎる事実に、俺の頭は真っ白になった。あの2人が、付き合ってない? あれで? あんな相思相愛なのに?
にわかには信じられないことだが、もし本当なら俺は今まで何を1人で悩んでたんだ。馬鹿らしい。

「ま、とにかくそういうことだから。今日の放課後、体育館な」

呆然とする俺の肩をポンとたたき、颯太はその場を立ち去った。残された俺は1人悶々と考えを巡らせていた。














結局考えはまとまらないまま、俺は放課後1人体育館へと向かっていた。まったく訳がわからないことだらけだ。だいたい天谷ひなたはなんで俺を呼び出すんだ。俺、なんかしたっけ?
呼び出しの理由には2種類しかない。喧嘩のお誘いか、告白か。どうみたって天谷は俺と殴り合いをしたいようには見えない。となると、答えは1つ。
だが天谷が俺に告白するということは、木月は天谷に…。

歩きながら考えあぐねていた俺は、ふと上の方から鋭い視線を感じ顔を上げた。目が、校舎の窓から俺を見つめる男の姿をとらえる。少し遠目でも誰かはすぐわかった。木月圭人だ。
彼と目があった瞬間、俺は無性にそらしたくなった。でもどうせ向こうがそうするだろうと思っていたので、俺は立ち止まったまま木月を見ていた。

けれど今日に限って木月は目をそらそうとはしなかった。遠すぎて彼の目は見えなかったが、その視線からくる感情に俺はいたたまれなくなった。
馬鹿でもわかる。これは嫉妬だ。木月は俺に嫉妬してるんだ。片思いの相手が慕ってる男、それが俺だ。疎ましく思うのは当然のこと。
ずっと勘違いしていた自分が恥ずかしくなり、そこから逃げ出したくなったとき、タイミングよく木月が顔をそらした。彼の姿が見えなくなって、俺は小さくため息をつき体育館に向かって歩き出した。

俺は今日ほど、自分が嫌になった日はなかった。


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