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未完成の恋(番外編)
014


久遠と別れてから、俺は変わった。今までとまったく同じ生活をしているはずなのに、すべてが新しく感じる。頭の中のいらないものを綺麗に取り除いたような気分だ。今の俺なら、自己満足な優しさを押し付けたりせず、自分の意志を通すことができる。そう思っていた。けれど現実は、そう簡単にはいかなかった。

「成瀬、お前またやつれてないか?」

「しょうがねえだろ。また駄目だったんだ…」

颯太の心配そうな顔が、俺を責めているような気がした。そんなはずないのに。ここまでくるともう末期だ。

「でも、ちゃんと別れてくれって言ったんだろ?」

「アイツら全然、聞いてくれねえんだよ」

俺は久遠との約束通り、いま関係を持っている男すべてと別れようとした。すんなり別れてくれた奴もいたが、大半がそうじゃなかった。終わりにしようと言えば大泣きされ、挙げ句の果てには、もし俺を捨てたら死んでやる! とまで脅されて、もう俺はどうすればいいのかわからなくなった。

「なんか俺、優しいとか以前に、ただたんに気が弱いだけの男のような気がしてきた…」

「そんなことねえって。成瀬はただ、優しすぎるだけなんだよ」

颯太は俺のことを過大評価していたが、大粒の涙をこぼし泣きじゃくる相手の姿を見ると、とてももう会えないなんて言えなかったのは事実だ。そうして結局、俺は以前と同じような生活を繰り返してしまっている。
しばらくの間、俺はそんな生活からなんとか抜け出そうともがいてみたが、一向に状況は変わらない上、だんだんとやつれてきた。そんなことで体力を奪われるぐらいなら、喧嘩で体力を消耗する方が幾分マシだ。それに、特定の好きな人が出来た訳でもない。俺はしばらくは、このままの状態でいることに決めた。



そして1つ、俺にはどうしても気になることがあった。

木月圭人だ。


「なあ、颯太」

「なに?」

「なんかお前の後輩、やたら俺のこと見てくんだけど」

「は?」

そう、ここ最近というもの、俺は木月圭人の視線を嫌になるほど感じていた。別に本当に嫌だったわけじゃないが、どうしても気になってしまう。

「うーんアレは見てるんじゃなくて、睨んでるって言うんだけどなー。成瀬聞いてないなー…」

一体どういう風の吹きまわしなんだ。木月は今まで俺のことなんて見向きもしなかったのに、今は隙あらば俺を見ている。もっとも、視線に気づいた俺が木月を見ると、すぐにそらしてしまうのだが。
見られることには慣れている、はずだ。けれど木月の視線はまわりのそれとは全然違ってみえた。見られる理由がまったく思い当たらないから、俺は余計に気になった。でも木月に直接尋ねることなんて出来ない。俺はよくわからないもやもやとした感情と共に、居心地の悪い暮らしをしていた。











そんなある日、じゃんけんに負けた俺は杉崎と一緒に購買に向かって歩いていた。

「えー…長谷寺がぶどうジュースで、颯太がフルーツ・オレ、畑本が烏龍茶で、瀬川が……なんだっけ」

「オレンジジュースじゃないか? いっつもそれだし」

杉崎が必死に人ごみをかき分けながら答えた。この時間帯はどうしても購買付近は人で溢れかえってしまう。ただ一つ、俺の周りをのぞいて。

「九ヶ島はいいよな、お前の周りだけ人がさけてくれて」

やっと俺に追いついた杉崎は、嫌味たらしくそう言った。俺はそれを無視して、不自然に人が空けた道を通って購買のおばさんに声をかけた。

「おばちゃん、久しぶり」

「あらあ、九ヶ島君。久しぶりねえ。調子はどう?」

「んー…まあまあ、かな。ぶどうジュースが2つと烏龍茶、それからフルーツ・オレにオレンジジュース2つちょうだい」

「はいはい、ちょっと待ってねー」

俺がみんなから集めた小銭をポケットから取り出して枚数を確認していた時、横から誰かの手が伸び小銭を並べた。

「フルーツ牛乳と、ココア」

「…!」

その愛想のかけらもない声を聞いてすぐ、隣にいるのが誰かわかった。

木月圭人だ。


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