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last spurt
5日前:U



「─…これが理由だ。俺はもうこのチームに残ることは出来ない」

突然の別れに納得いかない皆を説き伏せるため、俺はこうなった経緯を説明した。話し終えた後もみんな一様に黙り込んでいる。当たり前だ。兄に捨てられた弟にかける言葉が、そう簡単に見つかるはずがなかった。ただ1人をのぞいては。


「……ふざけんじゃねえぞ」

沈黙の中、そんな唸るような憤怒の声が響き渡った。香澄だ。

「何だよそれ! いい加減にしろよ日浦! 無責任にも程がある!」

怒りをあらわにする香澄は俺の胸ぐらにつかみかかってきた。この男に責められるであろうことを予想していた俺は、そこまで驚きもしなかった。

「このチームはお前が未波さんに任されたんだろ! んな簡単にやめていいと思ってんのかよ!」

「ちょっと、香澄さん!」

今にも俺を殴りとばしそうな香澄の気配を察して、優哉が止めに入る。だが香澄の力に優哉がかなうはずもなく、奴の勢いが衰えることはなかった。

「このチームは、俺らに未波さんが残したこのチームはどうなる!? ここのトップはお前なんだぞ!」

俺は香澄の手を無理やり振り払い、うつむき目をふせた。

「──チームって、たった5人で何が出来る。チームと呼べるかどうかもわからない」

「! てめぇ日浦…っ」

香澄の怒りは奴を見なくても伝わってきた。自分のチームを侮辱されたんだから当たり前だ。しかもそのチームのヘッド本人に。これは、殴られてもおかしくないな。よけるのは簡単だけど、黙って殴られた方がいいかもしれない。

だいたい俺だって、本当にそんな薄情なこと思ってる訳じゃない。このチームは最高だ。香澄は嫌な奴だけど、未波さんがつくったチームを愛してるし何より喧嘩が半端なく強い。優哉だって非力ではあるけれど戦術を練るのはいつも彼だ。全員が全員このチームには必要で、かけてはならない存在。でも1人1人の力が大きいからこそ、チームに新人を迎えることは出来なかった。足手まといは不必要だと俺が判断したんだ。結果、最強のチーム『ugly』は、たった5人ぽっちしかいない最小のチームになってしまった。


「お前にはチームを守る責任があるはずだ。なのにお前は、自分の事で精一杯ってか?」

香澄が俺にこう言うのはチームに残って欲しいからじゃない。未波さんが与えてくれたチームの頭という地位を、俺が簡単に捨てることが許せないんだ。

「……そうだ」

言い訳もせず肯定した俺に香澄だけでなく皆が反応した。

「俺はもうここには来ることが出来ない。それは自分がかわいいからだ。これからの生活を考えたら、今までのように遊んでる訳にはいかない」

これで、嫌われたかな。香澄にはもともと好意なんて持たれてないけど、絶対に嫌われたくない人もいる。

「生活だあ? んなもん今まで考えたこともねえくせに! ぜんぶ兄貴に任せっきりだったらしいじゃねえか。今抜けるぐらいなら最初から入るんじゃねえよ! だいたい親が死んでから──」

「レイ」

怒りをあらわにした香澄の失言を止めたのは、やけに冷静なトキだった。いつも笑顔のトキが真剣な顔で名前を呼ぶもんだから、香澄もすんなり押し黙る。

「ちょっと落ち着きなよ。レイが1人でキレたってしょうがないだろ。これはチーム全体の問題なんだから」

チッと香澄が舌打ちする音が聞こえた。昔から香澄はどうもトキには逆らえない。それは俺にもいえることだが。

ところがその瞬間、トキが止めに入ってくれたおかげですっかり気を抜いていた俺は、顔面に飛んできた拳をついブロックしてしまう。腕の向こうに殺意すら感じる香澄のぎらついた目が、はっきりと見えた。

「……お前は未波さんを裏切った。あの人の期待も愛情もすべて独り占めしてたくせに。とんだ恩知らずだな」

「──っ」

香澄はゆっくりと腕を下ろしていく。奴の憎しみに満ちた顔が嫌でも目に入った。

「日浦七生…俺はお前を、絶対に許さない」


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