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last spurt
002


先を歩く香澄の背中を視界に入れながら、雑草が好き勝手生えた地面を踏みしめる。優哉がちゃんと見張りをしているかどうか、俺はしつこく振り返って何度も確かめていた。


「ねえナオ、優哉にはああ言ってたけど、ちゃんと勝算あるの?」

隣に歩くトキの弱気な質問に俺は迷わず頷いた。勝つ自信なら充分すぎるほどに持っている。

「優哉から何か秘策でも聞いてるなら、もったいぶらずにおしえてよ」

「んなもんねぇよ。殴って蹴散らして潰す。それだけだ」

「え、まさか作戦なし…?」

不安げな表情を見せ項垂れるトキに、前を歩く香澄が怪訝そうな視線を送っていた。めずらしく弱腰になっているトキが気になるのだろう。だがこんなチーム同士の真剣勝負は久しぶりだ。トキの余裕がなくなってもおかしくはない。

「良くも悪くもこれが俺にとって最後の勝負なんだから、持てるすべての力を使って闘うだけだ」

いつもは六割程度しか出さない力を今回は全力出しきったっていい。朝から上げまくっていたモチベーションのせいで、俺の身体は暴れたくてうずうずしていた。

「…やっぱり、ナオはこれを最後にするつもりなんだ」

「……」

ああ、どうしてお前はそんな寂しそうな顔をするんだ。トキが友情から別れを嫌がっていることはちゃんとわかっているのに、今すぐこの場で告白したくなっちまう。
俺は思い上がっちゃいけない。告白なんて、まだ駄目だ。俺がこの勝負に勝って、すべてを終わらせてからじゃないと。
無口すぎるヒチが気になるが、俺がチームを抜けることをきっと納得してはいないはずだ。だがあいつの説得は別の機会にするしかない。とりあえず今日はユライ達を片付けて、その後トキに自分の気持ちを伝えてみせる。どんな結果になったって俺はそれを受け入れるつもりだ。













元は鍵がかかっていたであろう汚れたガラス張りのドアを香澄が開け、用心しながら入っていく。俺も真っ暗な環境に目を慣らそうとまばたきしながらその後に続いた。

ドアが簡単に開いたということはすでにスピロの連中はここに来ている可能性が高い。後方にトキとヒチの足音を聞きながら香澄の横に並び歩く俺は、嫌な気配を察して足を止めた。

「どうしたの? ナオ」

俺のすぐ後ろにいたトキが俺の背中に軽くぶつかる。トキだけでなく他の2人も立ち止まった。

「なんだよ日浦、てめぇまさかビビったのか」

「違ぇよ馬鹿。思い出せ、綿貫がよこした紙には何て書いてあった」

「紙?」

香澄が双眸を顰めて考えをめぐらせている。綿貫が俺たちに宛てた手紙にはたくさんのことが書かれていた。日時、場所、ルールなとが事細かに記されていたのだ。しかし今注目すべきなのはその中のほんの一部。

「場所は建物の待合室、って書かれていただろ」

「だから今からそこに向かおうとしてんだろ。それが何だってんだ」

「病院の待合室は普通、入り口のすぐ側にあるね」

香澄に気づかせるよりも早く、俺の言いたいことを察したトキがそう口にした。

「おい、ってことは…」

そう、スピロの連中がすでにここにいるなら、すぐ近くに息をひそめているはずだ。俺は周囲のどんな気配も感じられるよう神経を鋭く研ぎ澄ました。そしてだんだんと目が暗闇に慣れてきた時、長椅子などが散乱した汚く広いロビーのずっと奥に数人の人影を見た。

その中の1人、椅子に座っている中央の男と目があった気がした。確証はなかったが。





「やっと会えたな。待ちくたびれたぜ、日浦七生」


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あきゅろす。
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