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last spurt
前日



土曜日。決戦の日を明日に迎え、じっとしていられなかった俺は優哉に内緒で行動を起こしていた。もちろん香澄を見張っていたわけではない。俺が調べていたのは南のことだ。

もし優哉のいうとおり誰も由来と組みしてはいないのならば、怪しいのは他でもない南だ。南が嘘をつくことにどんな利益があるのかはわからないが、後で後悔するぐらいなら、いま納得いくまで徹底的に調べるつもりだった。

とはいえ他人の素性を探る方法など知るわけもなく、俺は南の働いているバー“truth”の前まで来ていた。俺は南という人物をよく知らない。だから南が入院しているうちに他の店員に奴の話を訊こうと思ったのだ。

南は一体どんな男なのか。信用に足る人物なのか。
それを知る一番の近道がこの方法だと思った。けれどこの店はブラッド・バインズの幹部が根城にしているため、客としてのこのこ入室し聞き込みするわけにもいかない。だから店が開店する前にマスターなりバイトなりつかまえて話を訊く予定だったのだが……。


「…マジかよ」

時刻は午後4時を過ぎたところ。夜のバーが開店する時間ではない。にもかかわらず“truth”のドアにはオープンの札が垂れ下がっていた。すっかり頭から抜け落ちていたが、この店の開店時間は早かったんだ。この前だって、かなり早くからバーは開いていた。俺は自分の馬鹿さに辟易しながらもバーの入り口が見える場所に座り込んだ。もしかしたらまだ他の店員がこれからやって来るかもしれないと踏んだのだ。


そうやって待つこと10分。昨日の一件で懲りていた俺は少々の危険があっても店に入ろうかと思い始めていた。このまま人通りの少ない路地にいて、またスピロの連中に見つかってしまうよりは、ブラッド・バインズと鉢合わせした方がマシだ。いや、スピロの奴らはつい先日ウチがボコボコにしたばかりだから、しばらくはなりを潜めているとは思うのだが。

俺が意を決して立ち上がったのと同時に尻のポケットに入れていた携帯が振動する。ディスプレイを見るとそこには“トキ”と表示されていた。

一体何の用だと少しドキドキしながら通話ボタンを押すと、すぐにトキの荒っぽい声が耳に飛び込んできた。

『もしもし! ナオ!?』

「なんだよ、そんな怒鳴らなくっても聞こえるって」

『何で昨日、レイの家に行ったの?』

「は……」

突飛すぎて言葉もなかった。通常ならばヘッドである俺がチームの一員の家に行くなど、なんら不審ではない。だが俺と香澄の場合は別だ。奴と俺は犬猿の仲で互いにいがみ合っている。相手の家に行くなどどう考えても不自然で、とても友好関係を築くためとは思えない。

「…どうしてそれを知ってる」

『ヒチがやっと吐いた! 昨日どこいってたんだって訊いたら、なかなか教えてくれないから問い詰めたんだよ』

余計なことを、と俺は内心舌打ちしたが昨日の一件を隠したがるヒチの気持ちはよくわかる。俺とのことを双子の兄にペラペラ話せるわけがない。
ヒチの奴、てきとうにごまかしておけばいいものを。アイツはそういうとこ不器用だ。

『で、いったいどうして?』

「えっと………別に、トキには関係ないだろ」

俺も人の事とやかくいえなかった。うまい言い訳など急には思いつかない。

『………ナオ、今どこ』

「どこって、前スピロとやり合ったとこの近く。バーの前の」

『そこにいて』

「え、ちょ…」

電話が切れた。正しくはトキが切った。まさかアイツ、ここに来るつもりなのか。ただ香澄と何を話したか聞くためだけに?

疑問はつきないが、もしトキが本当にここに来るならば早く南のことを片付けてしまわなければ。俺はやや勇み足で、ためらうこともなく開店したばかりのバーの扉を開けた。


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