last spurt
2日前
南から話を聞いたその日に、俺はヒチに連絡して香澄の自宅の場所を教えてもらった。その理由をしつこく知りたがったヒチに、俺は『香澄に話があるんだ』とだけ答えておいた。確かなことは何一つわからないこの状況でヒチにすべてを説明することは出来なかった。
ヒチの話によると香澄の住むマンションは都心から少し離れた住宅街にあるらしい。ヒチは懇切丁寧に説明してくれたけど、困ったことに俺は迷ってしまった。駅を右に真っ直ぐ進んだ先にあるデカい公園をまた右に曲がる。その筋にあるマンションが香澄の家だとヒチは言ったが、まずマンションのある気配がない。周りは一軒家ばかりだ。
「右…右って言ったよなぁ…」
昨日メモした紙を見ながら俺はヒチの言葉を信じてひたすらマンションを探した。もう一度ヒチに電話して訊いてみようかと考えていた時、俺の目に薄汚れた看板が映った。
「…カスガハイツ、105号室」
それは確かに香澄がいると聞かされたカスガハイツという名の建物だったが、どう見てもマンションではない。どちらかというとアパート、しかもボロがつく2階建てのアパートだ。ひょっとすると俺の家よりボロいかもしれない。
探し当てるのに若干てこずったため、ヒチの表現の間違いに対して意味のない苛立ちが一瞬芽生えた。だがよくよく考えてみると確か香澄は1人暮らしだった気がする。17歳が1人でマンションなんて大層なところには住めないだろう。
香澄が嫌いな俺は当然ヤツの住所なんて知らないし、行くのもこれが初めてだ。でもヒチが香澄の家を知ってて良かった。そうでなければ俺はトキから香澄のことを聞き出す羽目になっていた。香澄と結構仲が良いトキなら奴の住所を知っているはずだ。でもそれを聞けばトキと香澄の仲を再確認することになる。…それはなんとなく、嫌だ。
105号室はそのアパート1階の1番奥のにあった。学校に通っていないとはいえ、自宅に香澄がいるという保証はどこにもない。だが今いなければまた時間をおいて出直せばいいだけのことだ。今日奴に会えなければわざわざ学校を休んだことが無駄になってしまう。
コンコンッ、とインターホンのない部屋のドアを強めに2回ノックした。ところがなかなか反応はなく、香澄は俺だとわかれば出てこないかもかもしれないなと懸念していた時、部屋の中からこちらに向かってくる足音が聞こえドアが勢い良く開いた。
「…はいはいこんな時に一体誰──」
そこにいたのは香澄ではなかった。俺より少し年上の気の強そうな女の人だ。
「……」
「……」
互いに言葉を失う俺達。部屋を間違えたのかと思ったが表札にはちゃんと香澄と書いてある。まあ、その横に知らない名字もあるからおそらくこれが彼女なのだろう。でもまさか女が出てくるなんて、同棲してるなんて聞いたことがない。今さらながら俺は奴のプライベートをまったく把握出来ていないことを知った。
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