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ストレンジ・デイズ



「きゃああああ!!」

彼女は叫び声とも歓声ともつかぬ悲鳴をあげて、俺に飛びついてきた。まさか突進されると思っていなかった俺は無様に固い床に倒れ込む。

「いて…っ」

「いやあああ何コレ何コレ! 何この可愛いの! 期待以上! もう最っ高!!」

わけのわからないことを叫びながら、彼女は俺の頭をもてあそぶ。俺のカツラは特注でコツをつかまないとはずれないようになっていたので、さんざんつかまれても取れることはなかった。

「…おっと、そんなことしてる場合じゃない。初めまして! あたし、阿佐ヶ丘唄子!」

やっと俺を解放した彼女は満面の笑みで自己紹介をし、手を差し出した。

「初めまして、阿佐ヶ丘、さん…?」

俺はその手を握り握手に応じる。明るい子だ。若干テンションが高すぎる気もするが。

「唄子でいいよ。よろしく、真宮響介くん」

「ああ、じゃあ唄子よろしく…………って待て待て待て! まみやきょうすけ君!? 何で俺の本名知ってんの!?」

まかの事態にパニックに陥る俺。それに引き替え、涼しい顔をした唄子は慌てもしなかった。

「…あっれー? 香月さんから聞いてない? 同室の子は協力者だって」

「…………」

そういやここに来る途中の列車で、香月が何やらペラペラしゃべっていたような。小難しそうな内容だったので完全に右耳から左耳にスルーしていたが。

「……協力者っつーことはだな。お前は俺が男だってことも、何のためにここに来たかも知ってんの?」

「そりゃもちろん」

「マジで!? よ、よくオッケーしたな。男と同室なんて」

俺なら絶対断ってる。というか何でコイツが俺の同室者になったんだ?

「えーあたし全然良かったけど。おじいちゃんにお願いされる前に自分から志願したし」

「…おじいちゃん?」

俺が疑問に首を傾けると、唄子は自分を指差した。

「ああ、まだ言ってなかったっけ。あたしここの理事長の、孫」

「嘘!? まご!?」

驚く俺に、その通りー! とはしゃぐ唄子。なるほど、それなら納得もできる。

「だいたい何も知らない女の子を男と同室にするわけないでしょー。真宮くん、あたしがいなかったら、この学校に女装して入るなんて出来なかったんだから」

そっちの方が良かった、なんて本人の目の前で言ってもいいのだろうか。

「ここでの名前は、小宮今日子ちゃんなんだよね」

「ああ」

裕司がつけてくれた名前だが、いまだに慣れない。

「どっちの名前にも“キョウ”が入ってるから…、“キョウちゃん”って呼んでもいい?」

「……別にいいけど」

良かったー、と笑顔になる明るいルームメート。この女、笑うと結構可愛い。まあ笑って怖くなる女なんてそうそういないが。

「…にしても」

唄子はいきなり顔をつかみ、動けない俺をじろじろと観察した。

「何この可愛さ! 男には全っ然見えない! 髪の毛どうしてんの、カツラ?」

俺がうなずくと、おおーと感嘆の声をあげる唄子。その後も、目ぇデカっ! や、足長っ! 何で体毛ないの? などとさんざん褒めちぎっていた。

「キョウちゃんみたいに可愛かったら、彼氏作り放題よねー。いーいなあー」

唄子があまりにも褒めるので、なんだか照れる。まだ会って数分だけどコイツ結構いい奴っぽい。唄子が同じ部屋で良かったかも。

「ま、まあ、俺は実際男だから彼氏なんか作んねーけどなっ」

この格好じゃ彼女は出来ねえだろうな…と落ち込んでいると、唄子がガシッと俺の肩をつかんだ。なんだなんだと唄子の顔を見ると、彼女は真剣な表情でこう言った。

「ヤダ、彼氏作って」



「……は?」

唄子の言ってる意味がわからなくて、俺はその場に硬直した。

「キョウちゃんが彼氏作ってくんないと、キョウちゃんと同じ部屋になった意味ないじゃない!」

「う、唄子!? 何言ってんの!?」

当然ながら、俺はこの時まだ知らなかった。この女の趣味嗜好、そしてその見た目からは想像つかない、とんでもない性格を。


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