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ストレンジ・デイズ



善達に案内されたのは、敷地の外れにある第二駐車場だった。そこは普段保護者や来客用の駐車場なので、車は一台も停まっていなかった。

「ここが穴場なんだよ。監視カメラも人の目もないし、寮と校舎から離れてるから、まずバレないし」

「ほー、こんなとこよく見つけたな」

「花火やる時くらいしか使わないけど、こんな無駄に広い駐車場もっと有効活用しないとと思ってさ」

珍しく悪い顔をした善は慣れた手つきで準備を始める。鬼頭にバケツに水を入れてくるように指示し、キャンドルや手持ち花火を並べた。袋の中身は花火だけでなくジュースも置いてあり、準備が良い善に感心していた。

「じゃあ始める前に注意事項確認するぞ。念のために聞くけど、二人は花火やったことある?」

「もちろんあるよ。キョウちゃんは?」

「遠い昔に妹と兄貴とやった覚えはある」

俺が小学校低学年くらいのとき、兄貴が忙しい親の代わりに俺と妹のために家の庭でやってくれた。小さかったのであまりぼんやりとした記憶しかないが、楽しかったのは覚えている。

「火の始末と風向きには気を付けて。ないと思うけどもし誰かに見つかったら、俺達がうまくやるから可能なら二人は逃げてくれていいからな。あとわかってると思うけど、絶対花火は人に向けるなよ」

「言われなくても、んなことしねぇよ」

保護者のように話す善の言葉に相づちをうつ俺と唄子。昔、花火を持った兄貴に追い回されたのも今となってはいい思い出だ。兄貴は俺たちに優しかったが同じくらい意地悪だった。

「キョーコさーん! お水くんできたよ!」

「ありがと、菘。真ん中に置いといて」

バケツの中の水がすべてなくなるんじゃないかというぐらい勢いよく走って戻ってきた変態野郎。俺に抱きつきたそうにうずうずしていたが、唄子バリアがいまだ発動中だったので悔しそうにしていた。

「僕もキョーコさんにさわりたい…」

「シャツを引っ張るな、のびるだろ」

「ああ、ジャージ姿のキョーコさんも美しすぎて目のやり場に困る」

俺にひっつく唄子を恨めしそうに見る鬼頭。その間にも善は花火を並べてキャンドルに火をつけていた。

「ほら、キョウ。好きなの選べよ」

花火をしげしげと観察していた俺に善がにこにこと笑いながら促してくる。カラフルな手持ち花火の中から目についたものを選んだ。

「キョウ、駄目だって。紙はちぎらなきゃ」

そのまま火に花火の先端を近づけようとすると善にとめられた。善は俺と同じ花火を手に取るとその先っぽのピラピラした紙をちぎって火に近づけていく。

「そーなの? この紙がいい感じに燃えてくれんじゃねぇの」

「燃えないから。ほら、ない方がスムーズに火がつくだろ」

善に言われるがまま紙をちぎり先端に点火する。すぐに火花が噴き出してきて暗かった周囲が色とりどりに照らされた。

「おお! すげぇ」

柄にもなくはしゃいで跳び跳ねる俺を見て唄子が生暖かい視線を寄越してくる。俺以外はみなてもち花火に慣れているのか、平常心を保ったままだったのでなんとなく恥ずかしくなってきた。

「…た、確かに綺麗だけど、所詮は家庭用花火だな。まあ家でやる分にはこれくらいで…って唄子見ろ! これ色変わったぞ!」

花火の色が途中で変わっていくのを見て興奮のあまり隣の唄子を揺さぶる。唄子は特に驚いていないようなので、これが今の手持ち花火の常識なのだろうか。

「感動うっすいなお前…。じゃあ唄子にはこのタコの絵がかいてある花火をやるよ」

「別にいらないけど」

「いっこしかないやつだぞ!? お前がやらないなら俺がやる」

もめる俺と唄子を見て善が笑う。鬼頭が物欲しそうな顔でこちらを見てくるので気が散ってしょうがなかったが、久々に友人同士で遊んだことはいい俺の息抜きになった。


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あきゅろす。
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