ストレンジ・デイズ
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部屋に戻った俺は早速唄子に花火の件を話した。俺の作ったビーフシチューを食べていた唄子は、話を聞いて険しい表情になった。
「そんな夜間外出、駄目だからね」
「はぁ? 何でだよ」
「キョウちゃん、前夜中に出歩いて殴られたこと忘れたの? 夜の外出は危険なんだから」
「あ…」
確かに前に俺は夜中出歩いて遊貴先輩に殴られたことがあるが、唄子には見知らぬ不良に怪我させられたと話していた。
「あの時とは状況が違うだろ。男にはならねぇし、一人じゃなくて善が一緒だし」
「そういう問題じゃないでしょ。キョウちゃん自身に警戒心がなさすぎなのよ」
「うるせーな。お前は俺の保護者か! 関係ねぇのに口出しすんな」
香月並みに口やかましくなってきた唄子に、俺は親に口答えする子供よろしく反抗していた。唄子はスプーンを置いて、本格的に俺を叱る態勢をとった。
「キョウちゃん、あたしはそんな子に育てた覚えはありません」
「俺もお前に育てられた覚えはねぇ」
「関係ないっていうけど、あたしは香月さんからキョウちゃんのこと頼まれてるんだから責任があるの。だいたいこの事、香月さんに話したら確実に反対されるわよ」
「香月に言えるわけねぇだろ! 俺がどうの以前に、花火するのバレたらヤバい」
香月は根っからの真面目優等生君だし、今は風紀委員なんてものをやっている。校則違反を見逃してくれるとはとても思えない。
「香月さんに内緒にして、良かったためしなんかないもん。キョウちゃんがどうしても行くなら、あたしは香月さんに連絡します」
「馬鹿! そんなことしたら善にまで迷惑かかるだろ。絶対やめろ」
「だったら大人しく諦めて」
にべもなく切り捨てられて、俺はその場に項垂れた。唄子がけして意地悪なんかで言っているわけでないのがわかるだけに、強く言い返すこともできない。けれどこのまま素直に引き下がることもできなかった。
「俺、この学校に来て、女装なんかするはめになって、気の合う男友達なんかできねえって思ってた。でも、善はすげぇ良い奴で、男女関係なく友達になってくれたんだよ。なのに、俺は夏休みに善とささやかな思い出を作ることすらできねぇのか? そんなのあんまりじゃねぇか…」
「ちょっと、キョウちゃんやめてよ。泣き落としとか通用しないから」
「ここまで勉強だって頑張ってきたのに、ほんの少しの息抜きすらダメって。俺、生きてる意味とかあんのかな…? このままじゃ、頭がおかしくなっちまいそうで…」
「あー! もう! 何よあたしが悪いの? そうなの?」
「そうは言ってねぇよ。お前はなんも悪くねぇ。誰も悪くねぇんだ…」
唄子の前でこれみよがしにメソメソする俺。キレるのが逆効果なのはわかったうえでの泣き落とし作戦だ。
「……ああ、もうわかったわよ。今夜だけ特別に許してあげる!」
「ほんとか!?」
「ただしこれっきりだからね。それから、あたしも行くから」
「は?」
喜びのあまり上にあげた手を即効おろす。せっかくの楽しみに保護者付きなんて有り得ない。
「お前連れてくとかやだよ。女連れとかかっこわりぃし」
「お忘れのようだけど、キョウちゃんも女だから。この条件がのめないなら行かせません。ほら、さっさと八十島くんに連絡して」
「えー…!」
唄子の見張り付きなんて嫌だと散々ごねたが、奴はいっさい文句を受け付けなかった。結局、行かせてもらえるだけでありがたいのだと唄子に諭され、俺の方が折れることになった。
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