ストレンジ・デイズ
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その足で守衛管理室兼居候先へと猛ダッシュした俺は、モニターの前で困っていた東海林さんに駆け寄った。彼は門のインターホンと繋がってる受話器に向かって何やら話していた。
「東海林さん!」
「あー良かった来てくれて。この人早く開けろってすげー怒ってんだよ。開けていーのか」
「映像見せてください」
年のため確認すると、あまり画質は良くないが黒髪の男がイラついた様子で立っていた。金髪だった髪が真っ黒になっていたのですぐに彼だとわからなかったが、よくよく見ると確かにひびき様だった。
「本人です。すみません、開けてください。俺が出迎えに行きます」
「りょーかい」
俺は管理室から出るとほぼ全速力でひびき様の元へと向かった。学園の仰々しい門がゆっくりと開く音がする。ゆったりとした足取りで入門してきたひびき様の姿を見つけて、俺はほぼ反射的に頭を下げていた。
「ひびき様、お久しぶりです」
「よぉ香月……ってお前香月か?」
頭を下げたままの俺の頭を無理やり上げさせる。ボサボサ頭で大きな眼鏡をかけた俺の顔を見て、思い切り吹き出した。
「ぶっは…! なんだお前その面、それ変装のつもりか? キモすぎだろ」
「……見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません」
顎をを掴まれていた俺は、楽しそうに笑うひびき様の顔を強制的に見させられていた。派手だった金髪は地味な黒髪になっていたが、威圧感あるオーラは変わっていない。
ひびき様はどちらかというと母親似で怜悧様と同じく目鼻立ちのハッキリした顔立ちをしている。身長も俺より少し高く、ガタイもいい。端的に言ってとても男前だが、彼の容姿などこの際どうでも良かった。
「香月まじで跡形もないな、おもしれー」
「ひびき様、なぜこの場所がわかったんですか」
「乙香にきいた」
「……」
単純明快なその理由に俺は安堵すると共に、乙香様を口止めしておけば良かったと後悔した。俺の焦燥に気づいたひびき様は、肩をすくめながら手を離してくれた。
「俺が訊いたら話してくれたぜ。響介が祐司のせいで狙われてて、それで女のふりしてここに通ってるってな」
「は、話が早くて助かります」
「偽名はまだしも、女装って。誰が考えたんだよ。ウケる。ぜってーバレるだろ」
「それをわざわざ忠告しにきて下さったんですか」
「何だお前その言い方。可哀想な弟が心配で遠路はるばるやってきた兄に向かって言う台詞か?」
「すみません、失言でした」
どうして来たんだという強い思いがつい嫌味として出てしまった。しかしひびき様が来たことによって、この場所の安全性に不安を感じざるを得なくなってしまったのは事実だ。
「早く響介のところに案内しろ。あいつの女装見てみてぇ。乙香の奴カメラマンのくせに1枚写真も撮ってねぇなんて、ほんと使えねぇオバさん」
弟の女装姿が見たい。という理由だけでここまで来たらしいひびき様に絶句する。その軽率な行動をよっぽど責めてやりたかったが、俺にそんな度胸はなかった。
「ひびき様、ここでは先程のように安易に本名を名乗るのはやめてください。中ではキョウ様の兄弟だと悟られるのも駄目です」
「そんなピリピリしなくてもさ、俺ちゃんとわきまえてるから。ここに来るのも乙香達に倣って、細心の注意を払ったし、大事な弟を危険にさらすわけないだろ?」
「……そう、ですね。失礼致しました」
「わかったらさっさと案内しろ」
「はい。ではこちらに」
これ以上何か言ってひびき様の機嫌を損ねるのが怖かった俺は素直に従う。何事もなく帰ってくれと願いながら、俺はひびき様を引き連れながら校内を歩くことになった。
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