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ストレンジ・デイズ




その日の放課後、委員会の集まりということで体育館に来た俺はその人の多さ、というよりいかにも強そうな男子生徒の群集に圧倒されてしまった。
俺にとって初めての教員生活。けして完璧とは言い難いが授業中これといった大きなミスもなく、なんとかここまでやってこれたが、ここらで一波乱あるかもしれない。こんな集団を俺1人でまとめることが出来るのだろうか。


「あっいたいた…山田先生!」

その中のリーダー格のような男子が俺の名を呼んだとたん、全員の視線が俺に集まる。…迫力がありすぎてみんな怖い。

「初めまして。俺はこのたび風紀委員委員長の任をまかされることになりました、2年B組の一二三正喜と申します」

「あっ、これはこれはご丁寧に…新任の山田和希です」

一二三正喜と名乗ったその少年は俺に深く頭を下げる。今時めずらしい礼儀をわきまえた子だ。夏川とは大違い。

「委員長…なんですか?」

「はい。委員長は毎年、3年の投票によって決められていますので」

一二三君は愛想こそなかったが、見るからに真面目で誠実そうな子だった。だがなぜか手に竹刀を持っている。剣道部なのだろうか。どちらにせよ不審だ。

「えー、みんな注目! こちらが今年より前任の前田先生の代わって風紀委員監督教員を務めて下さる、山田和希先生だ。そして俺が風紀委員長、一二三正喜。1年間よろしく」

パチパチと盛大な拍手が沸き起こるも、頭を下げる俺をじろじろと怪訝な表情で観察している他の風紀委員達からは、早くも不安げな声があがっている。無理もない。今の俺はどこからどう見てもひょろひょろの庇護対象だ。

「山田先生は今年来たばかりですから、1年には俺から説明します。先生もここに座って聞いていて下さい」

「あ、ありがとうございます」

確か藤堂先生に聞いた話では、ここにいるのはデフと呼ばれる不良達と戦うために選ばれた屈強な戦士達…らしい。今日出会った木陰の美少年もその不良集団の一員なのだろうか。いやいやちょっと授業をサボっていただけでそう決めつけてしまうのは早い。…ちょっと軽く脅されたぐらいでそんな風に決めつけるなんて、よくない。
俺はあの後もう一度芝生に戻ったが、そこに少年の姿はなく名前も組もわからない俺は指導を諦めるしかなかった。まああれだけ綺麗な顔をしていれば、この広い学園でも彼の噂が耳に入りそうなものだが。

「皆も知っての通り、デフと呼ばれるこの学園の不良どもは名門最神学園の風紀を乱し、その名を汚している。善良で勤勉な生徒達を食い物にし、自分達の無能さや低脳ゆえの常軌を逸した行動は目に余るものがある。我々はそんな連中から一般生徒を守り、学園の平和を保持するという重要な役目を担った組織だ。他の学校の風紀委員とは違う、名誉ある役職だ」

一二三君のただならぬ言い回しに、大変なところに来てしまった…といよいよ不安になってくる俺。それとは逆に1年生の生徒達は、おおおと色めき立っている。まるで何かの討伐隊みたいだ。

「これよりそれぞれの一週間のシフトを決める。2人組を基本とし1年と2年を組ませ、それから副委員長を2年と1年からそれぞれ1人ずつ選ぶ。だがその前に…」

意味ありげに言葉をためる一二三君。体育館全体が緊張感のある静寂に包まれた。

「デフの中にもブラックリスト、極めて危険な要注意人物がいる。今からその4人の身体的特徴を説明するが、その男達が校則ないし法律を破ろうとしている場面に遭遇した場合、いかなる状況においても単独で行動したりせず、委員長と副委員長にすぐさま連絡するように」

「……」

もしかしてデフというのは単なるヤンキー集団ではなく、凶悪な犯罪組織なのだろうか。新名先生が風紀は新人が出来る役目じゃないと言っていたが、それ以前に教師が出来る役目じゃない気がする。

「3年に進級出来たデフは卒業間近という事もあり、毎年一気に大人しくなる。だから1番怖いのは2年だ。今から2年F組にいるデフの最重要人物のデータを伝えるので心して聞くように」

はい! と意気込む風紀委員達とは違いメモを取りながら沈み込む俺。明日、不幸にも2年F組の授業があるのだ。まだ会ったこともない相手に失礼だとは思うが、そんな情報を流されては気落ちするなという方が難しい。風紀委員とは名ばかりの武闘派集団に引き入れられた俺は、早くもこの教師生活の危機を迎えていた。


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