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ストレンジ・デイズ



なぜか顔を真っ赤にさせた富里君は、何かに祈るような仕草をした後、やっとのことでぽつぽつと話し始めた。

「すみません、いきなりこんな事。きっと香月さんにも、僕の気持ちはバレてしまっているでしょうけど──」

「え…?」

バレてる、って何が?

「香月さん、僕…っ」

「は、はい!」

彼にがしっと肩を掴まれた俺はなんとなく直立不動の体勢をとる。一体なんなのだろう、彼のこの気迫は。

「あなたが好きです…!」

「………………はい?」

「か、香月さんが好、きなんです…っ」

「………ぇえ?」

「僕、香月さん、が…」

彼が纏っていた気迫のベールはみるみるうちに消えて、富里君は真っ赤になった自分の顔を、俺の腕を掴んでいた手で覆い隠してしまった。

「す、すみません。何度も言うのは…は、恥ずかしくて……」

「…え!? あっ、ごめんなさい。そんなつもりでは」

富里君が言う“好き”を尊敬や憧れの類だと片付けてしまえれば良かった。それが出来ないからこそ、彼の言うことがすぐには理解出来なかったのだ。俺と富里君の接点など皆無に等しい。“好き”って、一体どうして? そればかりが頭に浮かぶ。

「一目惚れなんです…」

尋ねるまでもなく、富里君は俯いたまま俺に話してくれたが、出来ることなら聞きたくなかった。どうせ断ることになるんだ。あまり彼の心を感じたくはない。

「廊下で香月さんを一目見た時から、あなたを忘れられませんでした。こんな気持ちは初めてなんです。でも僕の立場ではあなたに話しかけることも出来なくて…。だからこの想いは一生自分の心に深くしまい込むつもりでした」

ドラマのワンシーンのような台詞に、俺はすっかりまいってしまった。頼むからそんな感情を込めないでくれ。

「真宮家を離れた後も、頭の中ではあなたのことばかり。だから香月さんがこの学校に赴任してきた時は、神様が僕の願いを叶えて下さったんだと──」

「ちょ、ちょっと待って! 確かあなたは…その、ノーマルな方なのでは?」

これ以上は訊くに耐えなくて、俺は思い切って横やりをいれた。だがこれは結構重要な事だ。曲がりなりにも俺は男で、確か唄子さんが富里君は同性愛者ではないと断言していたはず。

「ああ、それでしたら僕は違いますよ」

「え?」

どっちが? ノーマルが?

「僕、年上の男の人しか好きになれない性分で。だからこの学校ではノンケで通してるんです」

「………」

不味い。この展開は非常に…不味い。

「でも、良かった」

「…何がです?」

恐る恐る尋ねた俺に、富里君はにっこりと品のある笑顔を見せた。

「今の言い方からすると、香月さんはそういう人に偏見はないみたいなので」

「……」

富里君と話していると、自分の心が見透かされているようで平静を保てない。もしかすると俺がホモだという事も、すでにバレている可能性がある。ただ彼が口にしないだけで。

「もしかして富里君…怜悧様に言いました? 今の」

「え? ……あ、はい。怜悧さんに告白された時、断る理由をどうしても知りたいと言われて。彼女は僕がゲイだと知っても普通に接してくれて、すごく嬉しかったです。結果的に彼女には悪い事をしてしまいました」

どうやら怜悧様はすべてを知っていて、富里君に復讐する気などさらさらなかったに違いない。どうりで彼女の態度がここ最近特に冷たかったはずだ。

「富里君、せっかくですが俺は──」

「返事はいりません。ただ気持ちを伝えたかっただけなんです。あなたとこうやってお話し出来る日がくるなんて、夢みたいです」

「………」

顔を手で隠し恥じらいを見せるその姿は、まさしく恋する乙女(男)。富里君が俺を好いてるなんて、もしそんな事が響介様の耳に入ったら……あぁあどうしよう。きっと俺は彼にこてんぱんにされてしまう。

「僕のこんな告白を真面目に聞いて下さって、ありがとうございました。では僕はこれで」

「あっ、ちょっと富里君!」

「失礼しますっ」

俺が止める間もなく、半ば逃げるように廊下を全速力でかけていく富里君。廊下は走っちゃいけません、なんて注意する余裕もなく、俺はただただ放心しながらその場に佇んでいた。


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