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ストレンジ・デイズ



1時間目。授業のない俺は1人保健室へと向かっていた。理由は学園の理事長の孫でもある保健医、樋廻保さんに会うためだ。彼も唄子さんと同じ響介様の協力者らしい。昨日はバタバタしていて挨拶出来なかったが、今日こそはと俺は若干勇み足で廊下を突き進んでいた。

やっと保健室までたどり着き、ノックしたドアをゆっくりと開けた。

「失礼しま…」

俺の言葉はそこで綺麗に止まってしまった。無理もない。入り口から見えるベッドには響介様が大口を開けて爆睡していたのだ。

「……キョウ様?」

呼びかけてみても返事はない。完全に寝入ってしまっている。1限目からサボりとは、なんとも響介様らしい。

だが一体、これはどうするべきか。教師としては今すぐ起こして授業を受けなさいと叱るのが一番だが、俺の意志はいつでも響介様が最優先だ。もしかすると彼は本当に体調が悪いのかもしれないと望みを持ち、ほうっておいてもいいだろうか。

かすかに響介様の寝息がきこえる。口を開けたままの寝顔は無防備で、すっかり安心しきっているようだ。なんとも危なっかしい。

保健室の中を見回す。樋廻さんは出払っているのか誰の姿も見えなかった。

…これはもしかすると、千載一遇のチャンスなのかもしれない。

俺は響介様の横に立つとベッドに片足をのせ、メガネを外して頬に手をそえる。そして少し逡巡しながらもその唇に口づけた。

男にキスされても響介様は身じろぎ1つしない。彼は一度眠ると自分からでなければ、なかなか目を覚まさないのだ。もちろん長年、響介様と共にいた俺はそれを知っていた。

屋敷にいる時は1日に1回、忙しい時でもかかさず俺は響介様の唇を奪っていた。そのせいかここに来てからの俺は禁断症状でどうにかなりそうだった。
この邪な気持ちは封印してしまおう。教師として響介様の傍にいると決めた時そう決意したはずなのに、いざ本人を目の前にすると抑えられない。

「ん…んっ…」

息苦しいのか響介様が少し身じろいだ。俺はゆっくりと彼から離れ空気の逃げ道を確保する。

こんなに近くで、まじまじと女装した響介様を見たのは始めてかもしれない。その姿はまさに天使、蝶のように可憐で美しかった。まるで別人のようになった響介様の女装だが、よくよく見ると彼特有の顔のつくりが見え隠れする。世の中の男性ほうっておかないだろう。…いや、見た目なんてどうでもいい。たとえどんな格好をしていても響介様は響介様だ。俺が好きになった、真宮響介という1人の青年だ。

一生片思いを貫くと誓っている俺だが、やはり男。一緒に暮らしていて欲望を完全に押さえ込むことは不可能に近い。響介様相手に無断でキスなど自殺行為だが、その強い依存性に俺は自分をとめられなかった。

「…大好きです、響介様」

すやすやと眠る響介様に再び優しくキスをした。幸せを感じ有頂天になっていた俺は身分もわきまえず彼の口内に舌を差し込む。夢中になっていた俺は第3者の存在に気づかなかった。

「お取り込み中?」

「……っ!」

2人きりだと思っていた空間の中で突然声をかけられ、俺はものすごい勢いで響介様から離れた。入り口付近を見ると、メガネをかけた白衣の男性が楽しそうな表情で立っている。彼は俺を上から下まで眺め、軽い調子でこう言った。



「見ーちゃった」




………さ、最悪だ。


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あきゅろす。
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