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ストレンジ・デイズ



響介様達の安全を見届けた俺は、食堂をあきらめ購買で残ったパンを買い意気揚々と職員室に戻った。席につくとずっと職員室にいたらしい藤堂先生が出迎えてくれた。

「おかえり山田先生。…何だ、食堂では食わなかったのか?」

俺が手にしたパンを見つめながら彼は尋ねてくる。俺は早く食べてしまおうと袋を開けながら答えた。

「時間がなかったんですよ。少し事情がありまして。でもそう言う藤堂先生こそお弁当じゃないですか。奥さんの手作りですか?」

端に置いてある弁当箱を横目に見ながら、ひやかすように言うと彼は目に見えて不機嫌になった。

「ちげえって、俺が所帯持ちに見えるか? 今年から食堂には行かないって決めたんだ」

「え、どうして?」

「あんな目立つところはもうごめんなんだよ。俺は職員室からでる気はない」

藤堂先生は一気に暗くなってしまい、俺は対応に困った。一体彼の身に何があったのだろうか。

「あ、でもすごいですよね。忙しいのに毎朝お弁当作ってくるなんて」

「アイツらに絡まれる恐怖に比べたらそんなもの…」

なぜだろう、彼にはどす黒いオーラがつきまとっている。せっかくの色男が台無しになっていた。

「あ"〜〜っ、もう可愛い系の男なんか大っ嫌いだ! おとなしい顔して恐ろしいことしやがる。明日の委員会が憂鬱…」

「委員会?」

そういえば明日の放課後に各委員の集会があったな。でもそれの何が嫌なんだろう。

「藤堂先生は何の委員を担当しているんですか?」

「…文化」

「ああ、あの!」

文化委員は今日のホームルームで生徒達の人気を独り占めしていた委員会だ。生徒達が我先にと志願してくるので不思議だった。

「きっと藤堂先生が生徒達に好かれてるからですね。文化委員に入りたい子が多かったのは」

「あったり前だ。それが問題なんだよ」

ぶつぶつと悪態をつきながらコーヒーを飲む藤堂先生。すごく不機嫌だ。

「そういや、お前は何かの委員会担当してんの?」

「あ、はい。いちおう風紀委員を…」

「ぶッ!」

途端に、先生は飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。だが机の上に置かれていた書類に茶色いシミが出来ても、まったく気にしていない。

「風紀ってお前、壮絶な新人イジメじゃねえか…!」

「は?」

イジメって。風紀は理事長たっての希望だ。だいたいどうして風紀になることがイジメに繋がるのかわからない。

「いいか、よく聞け。ここの風紀はたんに校則守らせたり生徒の服装チェックするだけじゃない。風紀委員はな、デフから優秀な生徒達を守る警護隊みたいなもんだよ」

「def?」

「そう、でもそんな発音良くなくていい。デフは落ちこぼれと呼ばれるD、E、F組にいる不良の総称。そいつらと闘うのが風紀の務めだ」

「闘うって…そんな大げさな」

要するに、少々やんちゃな不良少年達を更正させるということだろう。けれど生徒達を落ちこぼれやdef…もといデフなどと呼ぶのはいかがなものか。

「ちっとも大げさなんかじゃねえよ。風紀は教師も生徒と一緒になって活動するんだ。デフの連中から目ぇつけられんのは時間の問題。風紀を任されて辞めていった教師を俺は何人も知ってる」

「ま、まさかぁ」

とか言いつつ顔をひきつらせる俺の肩に、藤堂先生はポンと手を置いた。

「山田先生、短い付き合いだったけど、お前のことは忘れねえ。この学校やめても、教師はやめんなよ」

「………」

藤堂先生の視線には哀れみと同情が含まれている。どうやら俺は、とんでもない役目を引き受けてしまったらしい。


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あきゅろす。
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