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ストレンジ・デイズ



「あ、そういえば」


ふと、思いたった俺はポンと右手の拳を左の手のひらにのせる。そうして不思議そうに目をぱちくりさせる響介様に尋ねた。

「女装の理由、夏川君にどう説明したんですか」

「え?」

「女装の理由ですよ。まさか本当のことを話した訳じゃないでしょう」

富里君を騙しにきました、なんて非人道的な理由、いくら響介様でもバラしたりしないだろう。そこまで頭の弱い方ではない。…きっと。

「い、命を狙われてるって言ったんだよ」

「なんですって?」

響介様の声はとても小さかったが、聞き取れなかった訳じゃない。俺は動揺したのだ。

「だ、か、ら! 俺は悪い奴に命を狙われてるから、変装して身を隠してるって言ったんだよ! しょうがないだろっ、他にもっともらしい理由が思いつかなかったんだから。………なんだよその顔、馬鹿にしてんのか」

「いえ、そんなことは」

むしろ俺は感心していた。響介様もなかなか侮れない人だ。完璧に的を射ている。

「で、夏川君は信じたんですか? その話」

「んな訳ねえだろ。こんなドラマみたいな話、今時小学生でも騙されねえよ。ま、それ以上追求されたりしなかったから良かったんだけどな」

そう言いながらも響介様は眉間にしわを寄せ、イラついている様子だった。夏川君にされたことが相当不快だったのだろう。
…それにしても夏川君がゲイだったなんて。彼はこの学校の生徒会長で皆の手本となるべき生徒なのに、オープンすぎる。やはり男色家が多いというのは事実だったのか。

「そういえばお前、何で俺を助けにこれたんだよ。俺の行動いちいちチェックでもしてんのか?」

響介様の疑い深い眼差し。彼の疑問も当然だ。俺は笑顔で響介様に説明した。

「唄子さんがキョウ様の危険を知らせてくださったんです。慌てて駆けつけたのですが、間に合って良かった」

「唄子ぉ? アイツがぁ?」

「ええ。キョウ様のこと、とても心配なさっていましたよ。ああいう方が側にいてくださって、キョウ様は幸せ者ですね」

「………」

響介様は何か言いたげに、まるで変節漢でも見るような目で俺をにらんでいる。どう贔屓目にみても好意的とはいえない視線だ。一体なぜ。

「つーかさ、何でお前唄子とそんな親しい感じなわけ? どういう関係なんだよ」

「どういう、と言われましても…ただ理事長にご挨拶に伺った際に、少しお話させていただいたんです。とても素敵な女性でした」

「………」

昔からあまり友人に恵まれなかった響介様も、授業中やホームルームで姿を見る限りでは、唄子さんとは仲むつまじくやっているようだ。俺がちょっと嫉妬してしまうほどに。

「香月さぁ、お前絶対勘違いしてるって。だってあの女──」

とその瞬間、急にガラッとこの部屋の扉を全開にする音が聞こえ、響介様の話は中断された。俺と響介様はいっせいに入り口に視線を集める。

「う、唄子さん…?」

俯きながらそこに立っていたのは、ついさっき俺が食堂に残してきた女性の姿だった。顔を上げた彼女の瞳には光るものが見えた。

「キョウちゃん…!」

泣きながら響介様に駆け寄り、思いっ切り抱きつく唄子さん。彼女の泣き声が部屋中に響き渡った。

「良かった、キョウちゃんが無事で…っ」

呆然とする響介様などまるでお構いなしだ。自らも準備室に来てしまうほど響介様のことが心配だったのだろう。これがもしドラマだったら、ここはきっと山場である感動のシーンに違いない。

うんうんと感慨に耽っていた俺に、響介様が胸に顔をうずめる唄子さんを指差して、何コレ? と口の動きだけで尋ねてきた。どうやらこの唄子さんの行為は響介様にはハードルが高かったようだ。俺はそんな彼を微笑ましく思いながらも、友情ってやつです、と笑顔で答えた。


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