ストレンジ・デイズ
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夏川君が出ていった後も彼に対してぶつぶつ悪態をつく響介様。だが俺の意識は別のところにあった。生徒会長に本名が露見した理由を考えるならば、響介様しかいない。
「……なぜ、バラしたりしたんですか」
「あ? なにが?」
「とぼけないでください! 本名のことですよ」
あれだけ他言無用だと言い聞かせたのに、こんなに早く暴露してしまうとは。完全に響介様を甘く見ていた。
「だってしょうがないだろ。言わなきゃ女装してることバラすって言われたんだから。それともお前はそっちの方が良かったってのか?」
「そんなことは……っ、だいたいどうして女装がバレたんです? まさかキョウ様、自分から言ったんじゃ…」
「そんなわけないだろ。喉仏見られたんだよ」
響介様はちょん、と自分の首もとを指差す。俺は絶句した。
「そ、それは……失念していました。申し訳ありません、俺のミスです。でもこんな小さいものに、よく気づきましたね」
「俺もびっくりだっつうの」
夏川君はかなり洞察力がある人らしい。だが困った。早くも大ピンチだ。
「夏川君…黙っててくれるでしょうか」
「大丈夫だろ。俺の弱みを握ったのが嬉しくてしょうがないって感じだったし」
どこか人事のような言い方をする響介様に俺は少し苛立ちを感じた。まあ、本人はまさか自分の命がかかっているとは知るよしもない。だから仕方ないといえば仕方ないのだが。
「でも、キョウ様もキョウ様です。嘘の本名を言うなりなんなり、やろうと思えば出来たでしょう。それをまた馬鹿正直に…」
「馬鹿って言うなよ馬鹿! しょうがないだろ、気が動転してたんだから。だいたい助けにくるのが遅いお前が悪い。俺、もうちょっとで男にキスされるとこだったんだぞ! 男に! 初めてのキスが男なんて、死んでも嫌だろ」
「……」
響介様の言葉に、顔がひきつりそうになるのを必死でこらえた。実のところ、響介様のファーストキスの相手は俺だ。それどころかセカンドキスも、サードキスでさえ俺が奪ってしまっている。
「あやうく、もうちょっとで道を踏み外すところだったぜ。野郎とキスなんて一生トラウマだもんな。俺まで変態になっちまう………ってどうした香月、下痢か?」
「……いえ」
激しい罪悪感によりうずくまっていた俺は、響介様に向ける顔がなかった。ごめんなさいごめんなさい。調子のって響介様が寝てる隙にキスしてごめんなさい。舌とか入れてごめんなさい。
心の中で心の底から謝る俺を見て、怪訝な表情の響介様。こんなんじゃ駄目だと心を入れ替えた俺は意を決して彼の目を見た。
「キョウ様、今からする俺の話をよく聞いて下さい」
「? …あ、ああ」
ここでもう一度、ビシッと言っておかなければ、すぐにあの男に響介様の居場所を突き止められてしまう。これも響介様のためだ。
「今回のことは、もう咎めたりしません。起きてしまったことは仕方がありませんから。ただ、これからは絶対自分の本当の姿を隠し通すと約束して下さい」
「な、なんだよ急に。そんな真面目な顔して…」
「キョウ様、お願いします。約束して下さい」
少し会って話しただけだが、恐らく夏川君は響介様の言うとおり大丈夫だ。いい人かどうかはこの際置いといて、他人にペラペラしゃべりそうな方ではない。脅して口止めするという手もあるが、俺が出ていくとかえって逆効果になりそうだ。
「…わかった」
俺の真剣な表情を見て響介様もめずらしく素直に頷く。もちろん俺がここまで切羽詰まっている理由をしらない彼は、どうも腑に落ちないという顔をしていた。
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