ストレンジ・デイズ
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「キョウ様!」
勢いよく理科準備室のドアを開けた俺の目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
俺はてっきりいつものように2、3人を相手に響介様が独自の感性のもとで説教たれているか、逃げ出した後だと思っていたのだ。
けれど準備室にいたのは響介様あわせてたった2人。
響介様…と、この学園の生徒会長(にはまったく見えない)、夏川夏。
2人はなぜか絡み合っていて、というより夏川君が、美女に扮装した響介様を押し倒している。響介様からはいつもの覇気が消えていて、半分涙目だ。
これは…ぶん殴ってもいいだろうか。夏川夏を。
互いに状況を理解するため数秒見つめ合った後、いきなりの乱入者に気を取られていた夏川君をおしのけて響介様がこちらに走ってきた。
「香月!」
恐怖で身を強ばらせながら俺のもとへ駆け寄ってくる響介様。俺は彼を受け止めるため両手を大きく広げた。響介様は俺のすぐ手前で小さくジャンプして、俺の胸に──
「遅ぇよタコ!!」
ドゴッ
「ぐふっ!」
……蹴りを入れた。
それをまともにくらった俺は痛みのあまりその場にうずくまる。響介様はそんな俺を仁王立ちで睨みつけていた。
「香月てめぇ、後ちょっと遅かったらなぁ俺アイツにキスされてたんだぞ!? もっと早く来いよバカ! タコ!」
「も、申し訳ありません…」
たとえ軟体動物に間違えられようとも、響介様が助かったのだからそれでいい。それにしてもキスって…夏川君は一体どういうつもりなんだ。
「あんたが、カズキ?」
いきなり、響介様の後ろにいた夏川君に話しかけられた。なぜ俺の名前まで知ってるんだろう。生徒会長だからだろうか。
「あ…はい」
俺は痛む腹をおさえて、なんとか立ち上がり夏川君を真っ向から見据える。
「ふーん…」
じろじろと俺を上から下まで観察してくる夏川君。なんだか嫌な感じがする生徒だ。
「かかってくるならかかってこいよ夏川! お前なんてボコボコにしてやらぁ!」
俺の後ろに隠れながら夏川君を挑発する響介様。彼は俺の新調したスーツをシワになるほど握りしめていた。
「………」
「な、なんだよ。やんのか」
夏川君はただ、じーっと響介様を見つめる。その間、響介様がぎゅっと密着してくるものだから俺は夢見心地だった。
「…ま、いいや」
一通り俺を観察した後、夏川君は俺達に近づいてくる。俺は響介様を自分の後ろに隠した。
「今日のところは諦めてやるよ。無理やりは俺の柄じゃねえしな」
にやりと余裕の笑みを見せた夏川君は俺と響介様の横を通りすぎ、開けっ放しになったままの扉の前で立ち止まった。
「今は嫌がってても、そのうちお前から俺にキスするさ。絶対に」
「はぁ!? そんなわけないだろ! 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ!」
俺の後ろできゃんきゃん吠える響介様を見て、夏川君はさらに笑みを深くする。
「まぁせいぜい今のうちに嫌がっとくことだな。─響介?」
夏川君の言葉に、俺はまるで冷水を浴びせられたかのようなショックを受けた。
響介、なんて。
なぜ彼がその名前を知っているんだ。
訳が分からず真っ青になる俺を残して、余裕の表情を浮かべた夏川君はあっという間にこの場を立ち去ってしまった。
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