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ストレンジ・デイズ
■敵と味方



お腹も減る昼飯時、生徒と教師が集まる食堂で、俺は数々のメニューが並ぶ看板を見ながら1人悩んでいた。

値段…でいえばここは鯖の味噌煮定食なのだろう。だが藤堂先生オススメのカツ丼も食べてみたくある。しかしやはりヘルシーさを考えると鯖の味噌煮なのではないか。いや、ここはあえてのイタリア料理にいくのもありだ。たまには日本食以外のものを食べてみるのも悪くない。


「ちょっと、アンタ」

突然、後方から声をかけられ振り向くと、そこに小柄な男子生徒が腰に手を当てて俺を睨んでいた。どうやら俺に対してかなり腹を立てているらしい。

「いつまで悩んでるつもり? 後ろに並んでんの気づきなよ。邪魔」

「あ、ごめんなさい」

どうやら俺は長蛇の列の原因だったらしい。慌てて横に飛び退いた。

「先にどうぞ」

ツンとした態度を崩さないまま生徒は俺を抜かしていく。この混む時間帯にトロトロしている奴がいたら怒るのも無理はない。
さて、これでゆっくり選ぶことが出来ると列の最後尾に並び直そうとした時、またしても声をかけられた。

「香月さん!」

切羽詰まったような悲鳴に近い声。その主がわかる前に、俺の胸に衝撃が走った。

「う、唄子さん…?」

恐る恐る胸元を見下ろすと、そこには見覚えのある茶色い髪が。

「助けて下さい香月さん! ああ神様、あたしどうしたら…っ」

「何があったんですか? 落ち着いて説明して下さい」

人目も気にせず泣き崩れる唄子さんに、俺はただならぬ予感を感じた。彼女の震える肩を抱き寄せ、安心出来るまで撫で続ける。

「キョウちゃんが親衛隊の人に連れていかれて…あたし何も出来なくて…っ」

「響介様が? …大丈夫です。ゆっくり深呼吸して。俺に何があったのか全ておしえてください」

走ってここまで来たのか息をはずませる唄子さんは軽いパニック状態だったが、なんとか彼女を安定させて事のあらましを訊いた。唄子さんの口から語られた内容は俺を動揺させるばかりだった。

「キョウちゃんが美作君に連れて行かれた時、あたし1人の力じゃ彼を止められなくて…、香月さんの携帯にすぐ連絡入れたんですけど…」

「すみません、気づかなくて」

携帯は鞄の中にしまいっぱなしだった。その間にも響介様には危険が迫っていたらしい。

「きっとキョウちゃん危ない目にあって怖い思いをしているに違いないわ! 野蛮な連中から暴力をふるわれているかも。ああ、あたしのせいよ。あたしがキョウちゃんを守れなかったから…」

「唄子さんのせいじゃありません。どうか落ち着いて。キョウ様が今どこにいるか、わかります?」

こくんと頷いた唄子さんはまだ手の平で顔をおおっていた。

「あたし、美作君の後付けたんです。なんとかしたくて、でも女のあたしの力じゃ無理で……お願いします香月さん! キョウちゃんは南館2階の理科準備室にいますっ。早く行って助けてあげてください!」

俺はわんわんと泣き続ける彼女の肩に手を乗せ、はっきりと頷いた。

「唄子さんはここにいて下さい。必ず俺が、キョウ様を助け出してみせます」

「香月さん…!」

響介様はああ見えて結構タフな方だ。昔、集団でいじめっ子に囲まれた時だってその持ち前の運動神経で切り抜けてきた。だから今回もきっと大丈夫。

俺は安心させるために唄子さんの目を見て頷き、すぐに理科準備室に向かって走り出した。


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