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ストレンジ・デイズ



「な…」

何で何で何で…っ! どうしてコイツは知ってるんだ。この完璧な女装を目の前にして、なぜ小宮今日子が男だとわかるんだ。この学校で俺の性別を知ってるのは理事長と唄子と樋廻と……ん、待てよ。今までの法則からいくとひょっとして……

「お前も孫か!!」

「……………孫?」



……あれ。


てっきり理事長の孫3号かと思ったが奴の怪訝な様子から察するに見当違いだったようだ。よくよく考えてみれば夏川が理事長の孫なら唄子が黙ってるはずがない。

「じゃあ、どうして俺が男だなんてわかるんだよ」

男であることを隠したり誤魔化したりはしかなかった。それほど夏川は口調は自信たっぷりだったのだ。その自信の理由も含めて気になる。俺だって自分だとわからなかったぐらい完璧な女装だったのに。

「どうして、って言われてもなぁ…」

ぐっと身構える俺を前にして、言いづらそうに奴は頭をポリポリとかいた。

「だって喉仏あるし」

「…!!」

至極当たり前のことを言われ俺は慌てて首もとを隠した。そういえば俺の首には避けようのない男の象徴が。

「後は手がまるっきり男。声も女にしては低い」

「な…っ」

一見、完璧に思われたこの女装の欠点をペラペラと指摘する夏川。いや、もしかして完璧だと思っていたのは俺だけで周りにはバレバレなんじゃないだろうか。

「心配すんな。それ以外は完璧に女だ。多分、俺以外気づいてないと思うぞ」

絶望にうなだれる俺に気がついたのか何故か励まされた。

「でもお前が気づいたんなら絶対そのうち他の奴らにだってバレるだろ! 俺はカマ扱いなんて嫌だ!」

「バレねえよ。俺と他の生徒は違う。奴らは表面のいい所だけしか見ないからな。アイツらのなまくら眼を通せばお前は文句なしの美女だ」

「………」

その“なまくら眼”を最大限に利用してる奴がよく言う。っていうか顔近い! さっきからずっと近い!

「1つ言い訳すると、俺は別に女装趣味があるわけじゃないからな」

「へぇえ、じゃあ何でこんな格好?」

「それは……」

妹に頼まれてトミーをたぶらかしに来ました、なんて言えない。だいたいコイツは生徒会長、富里は副会長だ。接点がありすぎる。

「なあ、何で?」

「………」

だから顔が近いってば! …くそ、ここはもう嘘を突き通すしかない。


「実は俺、──悪の組織に追われてるんだ」


「…………は?」

ポカーンとまぬけな面をさらす夏川。我ながらなんて嘘。だが今の俺にはこれ以上うまい言い訳が見つからなかった。

「組織の重要な秘密を知ってしまった俺は命を狙われている。だから自分を守るため仕方なく女装という名の変装をして、この学園に身を隠してるんだ」

「……………」

微妙な顔つきのまま数回まばたきを繰り返す夏川。奴はこの嘘八百のデタラメ話を信じただろうか。いやどう見ても信じてないな。

「……うん。……まあ、とりあえずお前が見た目は女、中身は男ってのはわかった。それさえ事実なら問題ねえ」

「え、ちょっ…」

暫時、俺を可哀想な物を慈しむような目で見た後、夏川は俺の体を再び押し倒そうとしてきた。これぞ大ピンチ、ファーストキスの危機パート2だ。

「放せっ、やめろ夏川! こんなことしたってあの女が喜ぶだけだぞ!」

「……あの女?」

誰? と首をひねった夏川は構わず顔を近づけてくる。俺は混乱する頭の中、必死でここから脱出する方法を考えていた。


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