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ストレンジ・デイズ



「か、夏川様! どうしてここに…っ」

俺はともかくとして、美作の動揺ぶりは見ていて可哀想になるほどだった。それに引き換え夏川は余裕の表情で、どこか面白がっているふしさえある。

「お前がまた新入生呼び出したってきいたからさ、ちょっと挨拶に」

飄々とした笑みを浮かべながら夏川は俺をちらりと一瞥した。

「これは…違うんです」

「違う? 何が?」

部屋にゆっくりと入ってくる夏川に美作はじりじりと後ずさった。どうやらこの呼び出しは夏川の目を盗んで行われているらしい。

「この女が夏川様に危害を加えていたので…それで…」

「ふーん」

夏川はムカつく笑みを見せながら顔を真っ赤にする美作の顎に手をかけた。

「何それ? 嫉妬?」

「! …いえ、あの僕は…」

「昨日あれだけベッドで可愛がってやったのに、まだ不満か?」

「夏川様っ、こんなところで…!」

「……………あのー、俺帰ってもいい?」

おずおずと手を上げた俺は2人の世界に口をはさんだ。これ以上コイツらと同じ空気を吸いたくなかった。

「会うのは2度目だな、小宮今日子。さっきはご丁寧な挨拶をどーも」

「な、何で俺の名前っ…」

美作から手を放し一歩近寄ってくる夏川を見て、俺の顔は引きつった。

「お前のことなら知ってるぜ? 蹴り飛ばされる前からな。数少ないノンケ共の注目の的じゃねえか」

「………」

それは何とも言い難い新事実だ。ホモに寄ってこられるよりはマシかもしれないが。

「おい美作、コイツに釘差すのは俺の役目だ。お前は帰れ」

夏川はあくまでノーコメントの俺から、おろおろとする美作に視線を移した。

「でも…っ」

「さっさと行け」

今までで一番低く鋭い声色を出す夏川。それを聞いて顔を真っ青にした美作はペコッと頭を下げてマッチョ君達と出ていってしまった。当然夏川の視線の矛先は俺になる。

「小宮、さっきはよくもやってくれたな。初対面で俺に蹴りを入れた奴はお前が初めてだ」

俺だって初対面で蹴り入れた奴はお前が初めてだよ。

「テメェが悪いんだろ、何でアイツにあんな酷い言い方すんだよ。気持ち悪い、とか」

「………お前に関係ないだろーが」

ご、ごもっともです。今でも俺は何であんなことしたのかイマイチわからない。

「お前、小山内の友達か何かか? 違うだろ? あんな奴ほっとけよ」

「………」

「それより俺は、お前に興味がある」

「へ」

突然迫ってきた夏川に、俺はなすすべもなく追い詰められた。真後ろには机、もう逃げ場はない。

「なっ、ちょ放せよ! お前何する気だっ」

「いいコト」

なにやら意味深な事を口走ったかと思うと、夏川は俺の腕をつかみ顔を近づけてくる。奴がしようとしていることにやっと気がついた俺は、慌てて夏川の肩を力の限り押し返した。

「やめろッ、男とそんなことする趣味はない! 絶対お断りだ!」

「なんだ、お前キスもしたことないのか」

…コイツ、サクッと俺の傷をえぐるな。

「そうだよ! 悪いかよ! つかそれこそテメェに関係ないだろ」

柄じゃあないが、俺はこう見えてファーストキスにはかなり夢がある。とりあえずこんな所で男とするのは夢に見たシチュエーションではない。

「へぇ、じゃあ俺がお前の初めてって訳か」

「はぁ? 何を…」

当たり前だが、夏川は俺の事情なんて考えちゃいなかった。なおも迫ってくる夏川を避けようとするうちに俺は机に上半身を押し倒されてしまう。

「放せ放せ! 放しやがれ!」

「もうあきらめろよ。気持ち良くしてやるから」

「ひいぃ!」

このキモい男にファーストキスを盗られるのだけは勘弁だ。俺は最大限の力を振り絞り奴の体をめいっぱい押し戻した。

「ぬおおおお!」

「……………お前、色気ないな」

「なくて結構!!」

必死で抵抗するも俺の努力むなしく夏川はぐんぐんと迫ってくる。力の差がありすぎだ。喧嘩が強いってのもあながち嘘じゃないらしい。

「つかテメェ、ホモのくせに何で俺を襲うんだよ! 変だろ!」

「問題ない」

「何で!?」

驚き戸惑う俺に、夏川は顔を歪ませながらとんでもないことを口にした。


「──だってお前、“男”だろ?」


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