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ストレンジ・デイズ



「食堂…それはもう王道にはかかせない存在よね」

「あ?」

昼休み。トイレで手を洗っていた俺に、外で待つ唄子のそんなつぶやきが聞こえた。この学校は女が少ないため女子トイレが各館に1つしかない。トイレのために遠くまで足を運ぶのは面倒だったが、利用者が少ないおかげでトイレは貸し切り状態。男の俺でもそれほど抵抗なく入れた。

「でもやっぱ男子便がいいよなあ…。つか何で女子ってトイレに友達とくんの? 1人で行きゃいいのに」

「トイレの場所も知らなかった人がつべこべ言わない。ほら、もっとしっかり手洗って!」

「へいへい」

俺が念入りに手を洗ってるうちに、唄子が鏡の前で髪の毛をいじりだした。俺が洗い終えた後も鏡から離れようとしないので、俺は唄子を無理やりトイレから引っ張り出した。

「ちょっと、まだ髪が…」

「髪ぐらいで、いちいちうるさい。毛が2、3本変なとこにあったって別に死にゃしねえよ」

「そりゃ、キョウちゃんはサラサラストレートだからいいでしょうけどね」

そっぽを向いてしまった唄子は一気に不機嫌になった。俺何かマズいこと言っただろうか。ま、不機嫌でいてくれた方が俺としては好都合かもしれないが。


昼時というだけあって廊下には生徒がたくさんいた。もちろん通行人は男ばかりでいい加減うんざりしてくる。女はいないのか女は。

「ちょっと」

イライラしながら歩いていた俺は呼び止められてもすぐには反応出来ず、唄子が俺の腕を引っ張って初めてその存在に気づいた。

「小宮今日子、お前に話があるんだけど」

いきなり俺を呼び捨てにしてきた奴は、超美少女顔の小柄な男。一瞬女かとも思ったがズボン履いてるし男で間違いないだろう。…残念。

「つかお前、誰」

初対面の人間に話しかけるなら名乗るのが常識だろ。礼儀のなってない奴だ。

「……僕の名前は美作。話あるから、顔かしな小宮」

「は? 俺にはお前に話なんて──」

こいつ、俺よりチビのくせしてえらそうに。話を聞く義理もないなと思い断ろうとした瞬間、横からぐっと腕を引かれた。

「ちょっと、失礼」

美作に断ってから俺を廊下の隅にまで連れてくる唄子。そして震える手で俺の肩をつかんだ。

「みみみ、みまっみまさ…」

「落ち着け」

唄子は深く深呼吸して再び話し始めた。

「驚かないでキョウちゃん、彼は2年B組の美作君。夏川生徒会長の親衛隊隊長よ…!」

「え、アイツ2年なの?」

「ツッコむのはそこじゃない!」

また唄子に怒鳴られた。いや、あの外見で年上は普通にびっくりだろ。でも言われてみれば校章が青色だった気もする。

「キョウちゃん、これは親衛隊からの呼び出しよ。絶対行かなきゃダメ」

「えぇ、何で俺が」

「夏川様にあんな馬鹿なことしといて、親衛隊が黙ってる訳ないでしょ」

「馬鹿なことって…」

お前がやれって言ったんじゃん。

「何でもいいからとにかく行って! キョウちゃんだって逃げるの嫌でしょ? 俺は金輪際、会長に近づくつもりはないからほっとけ! って言ってやりなさい」

「……」

確かに唄子の言うとおり、ここで態度をハッキリさせとかないとこれからもネチネチ疎まれそうだ。親衛隊から被害を受けた小山内の姿を思い出す。俺だって勘違いで理不尽な仕打ちを受けるのは嫌だ。

「……唄子は一緒に来ねえの?」

「馬鹿!」

「いてっ」

罵倒された上に背中を思いっきり叩かれた。毒づきながら背中をさする俺の手を、唄子は真剣な顔をしてぎゅっと握った。

「あのねキョウちゃん、どこの世界に女連れで親衛隊に呼び出される主人公がいるのよ。そんな受け聞いたこともない」

「い、いいじゃん別に! 女連れ主人公、一緒に新たな歴史をつくろうぜ」

「そんな黒歴史いらない〜っ」

俺だけを行かせようとする唄子と、何とか唄子も連れて行こうとする俺。唄子の手首を掴んで引っ張りあいだ。

「だいたい、なんでそんな1人で行きたくないの? 単独行動大好きなくせに!」

「小山内みたいにボコられんのは嫌なんだよ!」

「ボコられる訳ないでしょ! あんなか弱そうな子に何が出来んの。美作君よりキョウちゃんの方が絶対強い!」

「…………それもそうか」

「うわっ」

納得した俺が手を放した瞬間、ささえをなくした唄子がよろけた。くそ、そのまま無様に倒れれば良かったのに。

「話、終わった?」

律儀にもずっと俺達のことを待っていた美作は、ついにしびれをきらしたらしく、いつの間にか俺達の隣にいた。

「はい! どこなりと連れて行って下さい!」

「お、おい唄子…」

「ついてこい」

冷たい声で俺に命令して美作は早足で歩き出す。俺は面倒だなあと思いつつ、しぶしぶながら親衛隊隊長とやらの後を追った。


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あきゅろす。
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