ストレンジ・デイズ
□アブナイ生徒会長
香月のダルい授業を終えた俺達は教室に向かって歩いていた。廊下で誰かとすれ違うたびじろじろと見られたが、慣れるとそこまで気にならない。
「─…つまりね、副会長を落とすには一筋縄ではいかないのよ。内面? ほら見た目だけじゃないってとこを見せる必要があるわけ」
「………」
唄子の奴、さっきからずーっとこればっかり。俺がトミーに会う前よりもさらに生き生きしている。
「でもでも、やっぱり副会長より生徒会長よ! ひょんなことから会長と親密になった編入生は親衛隊に呼び出され──」
「唄子」
「第一印象は最悪でもだんだんと会長に心を開き──え、なに?」
奴のマシンガントークを止めた俺は、唄子の生気に満ちあふれた顔を見て言ってやった。
「お前、自分が女で良かったな」
「なんで?」
「もしお前が男なら、とっくの昔に殴ってる」
俺の出せる最大限の声色を出し脅すように睨んでやったのに、唄子はまったく動じず肩をすくめた。
「キョウちゃんにとっても、あたしが女で良かったと思うけど?」
「…なんで」
恐々尋ねた俺に唄子はニヤリと笑ってみせた。
「もしあたしが男だったら、絶対キョウちゃんを襲ってやる」
「…き、気持ち悪いこと言うなよ……」
俺がどん引きしていたその時、すぐそばの中庭の方で騒がしい声がした。
「どうした、何の騒ぎだ」
「見に行こうキョウちゃん!」
「え?」
俺が何か言う前に唄子は俺の腕をとり、ぐいぐい引っ張っていく。力強いなコイツ。
「おい、あれって…」
俺の目に飛び込んできたのは、この学園内で嫌いな男ナンバー2の小山内だった。奴と一緒にいる男にも物凄く見覚えがある。あの派手な金髪、無駄にある背丈、確かアイツは──
「せ、生徒会長夏川夏様! きゃああキョウちゃん! これは運命よ運命!」
俺の胸元をつかみぶんぶん振る唄子。夏川夏…俺がもっとも会いたくなかった男だ。
「さあキョウちゃん、会長に向かって走るのよ! ゴー! ゴー!」
「俺は犬じゃない」
人をペットのようにあつかう唄子を白い目で見ながら、俺はこっそり小山内と会長のやりとりを聞いていた。仲のいい友達同士、の会話には思えない。
「待って、僕の話を聞いて──」
「うっせえな! お前なんかの話を何で俺が聞かなきゃならねえ!」
初めて聞く会長、夏川の声は想像通り…というかなんというか、冷めきっていた。男らしい張りのある声だが、冷たい。
「し、しびれる…」
「………」
なのに唄子の奴ときたら目をハートにして会長を見ている。あー、だから女ってのは。顔がよければ何でもいいのか。
この小山内と夏川のちょっとした諍いは、場所が場所なだけにかなり目立っていた。ギャラリーが俺らの他にもわんさかだ。断言する、絶対また小山内はいじめられる。つーか小山内も何だってあんな奴に話しかけたいんだ。
「あぁもう鬱陶しいな! いい加減あきらめろ!」
夏川は小山内を振り払おうと必死だった。声も冷たければ中身も冷たい奴のようだ。噂通り。
「お前みたいな奴が俺に話しかけること自体間違ってんだよ! 身の程知らずも大概にしろ! わかったらもう俺に近寄ってくんな! 気持ち悪い」
「………」
公衆の面前で、なんて奴だ。コイツには人の心がないのか。
「…あ"〜もう我慢出来ねえ」
「キョウちゃん?」
夏川のあまりの態度に唄子の心配そうな声も聞こえない。自分の制御がきかなくなった俺は、ほぼ無意識に体を動かし気がつくと走り出していた。
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