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ストレンジ・デイズ



いきなりのテスト勧告に俺はいつもの覇気をなくし、すっかりふさぎ込んでいた。せっかくの休み時間も何もする気がおきない。

「キョウちゃん、いい加減立ち直ってよ。いつまで机に突っ伏してるつもり?」

「うるせー」

俺は何とか顔を持ち上げ窓から空を見上げた。ああ、外はあんなにも晴れ晴れとしているのに、俺の心は曇ったままだ。

「…? あれって…」

すぐ下の中庭を見下ろした俺に、見覚えある男の姿が。いくら人の顔を覚えるのが苦手な俺でも奴の顔は忘れはしない。

「──見つけた」

俺は口角をあげると同時に窓を全開にする。唄子が怪訝な表情でこちらを見ていた。

「ちょっとキョウちゃん何してんの!? ここ2階…っ」

唄子の制止を無視して俺は窓のサッシに足をかけ、迷うことなく飛び降りた。2階からダイブなんて家でもよくやってることだ。

コンクリートに着地すると共に少し足にしびれが走る。ある意味自殺未遂ともとれる行為。目撃されたかもしれないが、気にしたら負けだ。

中庭の中央には花壇があり色とりどりの花が咲いている。その花壇の前にしゃがみこむ男子生徒が1人。あの首元に垂れ下がったウザったい黒髪、いつ見ても虫ずが走る。

彼こそが俺の憎むべき復讐相手、その名も富里ハルキ。あだ名はトミー。

俺はまっすぐ奴に向かって歩き、たぎる怒りをさらに募らせていった。あの俺の可愛い可愛い怜悧を振りやがって、何様だっつーの!

奴の真後ろまできた時、俺の影に気づいたらしいトミーがゆっくりと振り向いた。

「こんにちはっ」

俺は白々しいぐらいの笑顔を顔に貼り付けて、精一杯のぶりっこで奴に挨拶した。

「あたし、1年A組の小宮今日子っていいますッ。初めまして! …先輩、何してるんですか?」

体をくねらせくっちゃべる俺は、我ながらキモいと思う。でも女のこういうのに男は弱いんだ。もし怜悧が俺にやってきたら卒倒する。

「え? …ああ僕は──」

にっくきトミーの声を聞いた瞬間、憎悪による鳥肌がたった。

「てんとう虫を見てたんだよ」

「は?」

て、ん、と、う、む、し?

何だコイツ何だコイツ。今どき高2にもなってテントウムシ観察なんかで喜んでる男なんかいるか!? キャラ作りにしてもおかしいだろーが!

「ほら、見て」

そう言って立ち上がった奴の左手人差し指には赤いテントウムシが。俺は反応に困った。

「こんなに小さいのに、一生懸命生きてるんだよ。僕らも彼らを見習って命を大切にしなきゃね」

「…………」

こんな男だったのか富里ハルキ。廊下ですれ違うだけじゃわかんなかった。きっと純朴な怜悧はトミーのこんなふざけた言葉にころっと騙されてしまったんだ。怜悧、優しいから。

「ああ、ごめん。まだ自己紹介してなかったね。僕の名前は富里ハルキ。2年A組だよ」

トミーはテントウムシをそっと足元の葉っぱの上にのせ、俺に微笑みかけてきた。黒い髪が太陽を反射してキラキラと光っている。俺はあまりの眩しさに目を細めながら首を傾けて奴に笑顔を見せた。

「今日子、まだこの学校に慣れてなくて…先輩、色々教えてくれませんか?」

「うん、いいよー」

軽っ。つか早。何で自分なんだとか色々疑問持たないのかお前は。即決しすぎだろ。

…まあ、とりあえずこれで話すきっかけは出来た。後はどんどん親密になってコイツを落とすのみだ。

「花とか虫とか好きなんですか? トミー先輩らしいですね〜……」

口走った瞬間、しまったと思った。自ら墓穴を掘ってしまった。

「トミー、先輩?」

奴の顔つきが変わった。呆けたような表情。まさかそう呼ばれるとは思っていなかったのだろう。
このとき俺は頭をフル回転させ、どう言い訳するか必死に考えていた。


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