ストレンジ・デイズ
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次の授業には出た俺は教壇に立つヘタレ教師、藤堂を見ていた。教室の出入り口には香月が立っていて、どうやらこの時間もHRらしい。
「1限目は遅れて悪かった。色々立て込んでてな…」
そう言い訳した藤堂はあきらかにやつれている。もし保健室で襲われるような目に日常的にあっているのだとしたら、かなりの負担だろう。
「藤堂先生、何かあったのかしら」
奴の異変には唄子も気づいたようで、なぜか胸を弾ませている。
「せっかくのHRなのに藤堂先生遅くてね、もうみんなめちゃくちゃイライラしてたのよ。代わりに香月さんが教壇に立ってたんだけど、罵声ひどかったな」
「ふーん……ってお前、何でそんな嬉しそうに言うんだよ」
香月が嫌われてることの何が楽しいのだろうか。唄子は香月のこと気に入ってたんじゃなかったっけ?
「オタクが過剰に嫌われてしまうのは王道の宿命! 香月さんにとってもこれは試練なのよ」
「まーた訳の分からんことを…」
ホントにコイツ訳わかんねえ。ま、もう理解すんのは諦めたけど。
「お前達、明日の放課後は各委員会の集まりがあるからな。忘れずに出席しろよ」
藤堂の言葉をきいて俺は委員会の存在を思い出した。集まりはふけるにしても何委員かぐらいは把握しておいた方がいい。後で香月に訊こうっと。
「そして今から言うこと、これが大事だ!」
突然、教卓を叩いた藤堂に俺の体はビクッと震えた。いきなりヒステリックだなオイ。さっきまであんなに暗かったのに。
「明日1時間目より、毎年恒例の新入生学力診断テストを行う!」
「はあぁ!?」
テスト撲滅運動を広く働きかけている俺は思わず叫んだが、クラスメート達は雄叫びどころか動揺もしていなかった。むろん俺の後ろにいる唄子も涼しい顔だ。
「これは内申書にも影響する非常に重要なテストだ。ここでライバルとの差を大きく広げろ」
俺の絶望なんてなんのその、藤堂は進学塾の塾長みたいな態度で高らかに話し続ける。
「このテストを放棄しようなんて間違っても考えるなよ。明日はたとえ高熱が出ようと頭蓋骨粉砕しようと、登校してもらう」
えぇえ、なんつー無茶ぶり。
「お前達はA組、この学園の誇り、つまり勝ち組だ! ここで他クラスとの歴然とした違いを見せつけ、闘争心を削ぎ落とせ! 勉強をおろそかにしたものに明日はない!」
藤堂の異常な盛り上がりにオォー! と拳を突き上げる生徒達。俺は場違いなところに来てしまったと改めて気がついた。
「A組からデフ落ちは絶対に許されない。そんなことになっても、先生知らないからな。いま勉強しないと一生後悔するぞ」
藤堂の口から『デフ』なんて言葉が出てきたので俺は眉を顰めた。ひょっとしてデフは公認の愛称なのだろうか。
「言うまでもないことだが、不正は絶対するな。カンニングなんてもってのほか。もしそんな奴がいたら、一生後悔させてやる」
鋭い目を光らせた藤堂がこちらにちらっと視線を向けてきたので、腹が立った俺は奴に向かってベーッと舌をつき出してやった。
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