ストレンジ・デイズ
□復讐だ!
1時間目終わりのチャイムと共に俺はさっさと保健室から脱出した。あんなサド野郎とこれ以上一緒にいるのは嫌だったし、何より樋廻を使って早く唄子に仕返ししてやりたかった。あのサド野郎は自分を使われることが気に入らない様子だったが、もちろんそんなのは無視だ。
結局、メガネ保健医はあきらめたのか、笑顔で『唄子をよろしくね』といって俺を送り出した。
人通りの少ない廊下を、俺は自分の教室目指して小走りしていた。俺は生徒が廊下に出てくるまでになんとか教室に戻りたかった。この学校で女はどうしたって目立つ。
「キョウちゃん!」
前方から声が聞こえ顔を上げると、ちょうど階段を駆け足でおりてくる唄子の姿が見えた。こりゃナイスタイミングだ。
「ちょっと、なんで帰って来ないの! サボりは駄目でしょ」
ずかずかと俺に近づきながら怒りを撒き散らす唄子。ふん、えらそうに出来るのも今のうちだ。
「キョウちゃんがいないから、委員会勝手に決まっちゃったわよ」
「え、嘘」
待て待て、それは簡単には聞き流せない話だぞ。
「ちょ俺、何委員になったんだよ」
「知らない。サボるのが悪い」
「なんだよそれ〜」
高校生活を円滑に進めていくためには、何委員に入るかは非常に重要だ。委員会なんてボイコットするのが俺の原則だが、そうもいかない委員もある。そんなのに入っちまったらこの世の終わりだ。
「知りたいんなら後で先生にでも訊けば? あ、香月さんに訊いた方がいいよ。藤堂先生、途中までいなかったから」
なんでいなかったのかなぁ、と首をひねる唄子。俺はその理由を知っている。
「で、お前は何の委員に入ったんだよ」
俺が尋ねると唄子は眉を顰めて答えた。
「あたし? あたしは美化委員」
「ええ〜何か美化ってダルそうじゃね?」
「……保健委員じゃなかったら何でもいいわよ」
唄子のその一言で俺は目的を思い出した。
「お前、保健医の樋廻と従兄弟なんだってな」
「…………アイツから聞いたの?」
唄子は見るからに嫌そうな顔で俺を睨みつけてくる。愉快愉快。
「あれは人じゃないわ、悪魔よ! あんなのと血がつながってると考えただけで…」
ぶるぶると身震いする唄子。こりゃかなりの重症とみた。
「へぇえ、お前、アイツが怖いのか」
「──キョウちゃん、なんかたくらんでるでしょ」
俺の考えることなんてお見通しだ、とでも言うかのように唄子はじとっとした視線を俺に向ける。俺は心の中で高笑いした。
「お前への復讐材料が見つかったんだ。これを喜ばないで何を喜ぶんだよ」
嬉しくてたまらない俺を見て、唄子は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「残念だけどね、キョウちゃん。あたしはあんな奴怖くもなんともないから。ただ嫌いなだけ」
「あ、お前の後ろに樋廻保」
「イャアアアア!」
俺の言葉に顔をひきつらせ叫びだす唄子。そしてそのまますぐ俺の背中に隠れる。
「どこ!? あの悪魔はどこよ!?」
「うっそ〜。いるわけねぇだろバーカ」
ああ、楽しい。楽しすぎる。俺をもてあそぶこの女にやっと仕返しできた。頼むからこれに懲りて俺と男を勝手にくっつけるのはやめてくれ。
「キョウ、ちゃん…!」
唄子の手がまわされ気がついたら俺は首を締められた。
「て、テメェ唄子…っ、苦し…」
気道を圧迫され俺はもう酸欠寸前だ。なんか視界がぼやけてきた。
「おい」
ところがもう少しで唄子に殺されるというとき、後ろから突然、張りのある声で勢い良く誰かに呼びかけられた。
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