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ストレンジ・デイズ



「俺はもう嫌なんだ、こんな生活! 来る日も来る日も男に押し倒され、いいように扱われてる! 俺は超ストレートな男だっつってんのに!」

「ま、待てよ、とりあえず落ち着け」

取り乱す担任をなんとかベッドに座らせる。大人の威厳なんてものはすでに消えていた。

「ちょっと1から説明してくれないか? えー…名前なんだっけ」

「藤堂だ! 藤堂雅! 担任の名前ぐらい覚えろ」

うっせえな。お前のことは俺の脳にはホスト教師としかインプットされてなかったんだよ。…今じゃ完全に変態教師だが。

「この学校は異常だ! 周りはどこもかしこもホモばっか! 生徒は俺を見るたび『抱いてくれ』としか言わない。ありえない、男なんか絶対抱くもんか!」

…あれ、雲行きがおかしくなってきたぞ。コイツもしかして──

「ホモじゃねえの?」

「当たり前だ!」

俺が指を差して尋ねると、藤堂は心外だとばかりに怒った。いや、意外だ。こんなにホモ臭いのに。

「ってか、だったらさっきの何なんだよ。男とベッドの上でいちゃこらしてたじゃねえか」

「あれは無理矢理! 進路のことで話があるって言われて、ついていったらあんなことに」

「へぇ…」

結構マヌケだな。うん、マヌケ教師だ。

「まあ、お前の気持ちもわからなくはねえよ。つらいよな、俺達男なのにこんな仕打ち」

俺は唄子の横暴を思い出しながら藤堂を励ます。けれど彼は怪訝そうに顔をしかめた。

「俺達…?」

しまった! 俺いま女だった!

「なんでもない! こっちの話」

なんとか笑って誤魔化す俺。つい口がすべってしまった。すぐに話題を変えなきゃ。

「で結局、藤堂先生は俺にどうして欲しいわけ?」

藤堂の悩みはわかったが、それと俺がどう関係してるかわからない。微妙に似通った境遇にある藤堂に同情して尋ねると、奴は真剣な顔つきになり俺に顔を向け正座した。

「小宮、頼む! 俺と噂になってくれ!」

「は!? なんで!?」

ついに壊れたかマヌケ教師。どうして俺がお前なんかと噂にならなきゃいけない。

「小宮みたいな美人と付き合ってるって知ったら、アイツらも諦めると思うんだ」

「な、なんで俺が! お断りだ、自分のことは自分で解決しろ!」

制服をぎゅっとつかんでくる藤堂の手をなんとか外そうと奮闘してみる。だが藤堂もなかなかしぶとい。

「頼むよ、小宮! もうお前しか頼める奴がいないんだ」

「そんなの知るか! 俺じゃなくて唄子に頼め、唄子に他校を紹介してもらえ!」

「唄子?」

俺のナイスな提案にきょとんとする藤堂。俺、なんかマズいこと言ったか?

「唄子って、阿佐ヶ丘のことか? 何でアイツがでてくるんだ」

「………」

そうか、コイツ唄子が理事長の孫だって知らないんだ。内緒にしててくれって唄子に言われてたっけ。あの女の言うことを聞くのは癪だが、約束は約束だ。なんとか誤魔化さなければ。

「いやぁ、なんつーかさ、そんなに嫌なら学校変えてもらえばいいんじゃないかなーって。理事長に事情を話せばわかってくれるだろうし」

「あ…ああ、それは俺も何度か頼んだ」

藤堂は頭を抱え、うなだれた。

「だが理事長は俺を手放してくれない。理由はわからないが、辞めさせてもくれないんだ」

…災難に。お前、唄子のお気に入りだから。

「だったら、そのホストみたいな格好なんとかしたらいいんじゃね? そんな胸元あいた服着てたら誘ってるようにしか見えないし」

俺はなかなかいい考えだと思ったのだが、藤堂はものすごい勢いで首を横に振った。

「それは絶対駄目だ。せっかくの俺の美貌が台無しになるだろ」

「…………」

ナルシスト、こいつナルシストだ。これは厄介だぞ。

「そんなこと言ったって、今のままじゃ解決しないだろ。瓶底メガネと前髪で顔隠したらどうだ? ほら、副担の香月みたいに」

香月はなかなか見れる顔をしているが、今はメガネと前髪でほとんど顔がみえない。
そういえば、たしか小山内も…。

「嫌だ。あんなダサい格好するぐらいなら、俺は死ぬ!」

きっぱり言い切る藤堂に返す言葉もない。ほんと、救いようのない奴。

どうやってこのナルシスト教師をかわそうかと考えていたとき、俺はいいことを思いついた。

「藤堂先生、場合によっては頼みを聞いてあげてもいいですけど」

「ほんとか!?」

ああ、俺って頭いいかも。いくらこいつがマヌケでナルシストでヘタレでも、教師だ。そこを思う存分利用してやればいい。

「もし先生が裏で手を回して、俺の成績あげてくれたら──」

「そんなこと出来るわけないだろう」

俺の条件は藤堂によって瞬殺された。

「なんでだよ! お前担任なんだからそれぐらい簡単だろ」

「他の生徒はみんな一生懸命勉強してるんだ。ズルして成績あげようなんて思うな」

腹が立つことに、怒られた。そういやコイツ意外と教育熱心だったな。すっかり忘れてた。

俺に利点がないのなら協力する意味はない。よし、はっきり断ろう。

「悪いがお前の提案は受け入れられない。だいたい教師と生徒なんか、噂になっちゃいけない関係だろ。それをわざわざでっち上げてまで…」

しゅんとなる藤堂に納得したのかと思った矢先、人の足音が聞こえ保健室のドアがゆっくりと開いた。


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