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ストレンジ・デイズ



俺はこうるさい唄子を何とか振り切ろうとしたが、奴はなかなか諦めようとしなかった。

「キョウちゃん、早く戻んないと授業始まっちゃうよ」

ずんずんと歩く俺に歩調をあわせてついてくる唄子。2人分の足音が、人の気配のない廊下に響き渡っている。

「一限目は、サボる」

「登校2日目で!? 昨日もサボったのに!?」

俺の腕をつかみ、無理矢理立ち止まらせようとする唄子を、俺はうんざりした目で見た。

「授業は受けなきゃダメよ! だいたいどこでサボる気?」

うっせえな、この真面目ちゃんが。俺はお前らみたいなガリ勉とは違うんだよ。中学時代だって普通に授業なんて無視してたし。

「そりゃもちろん保健室。なんならお前も一緒にサボるか?」

保健室は小学校時代からの俺の避難所だった。ちなみにこの学園の保健室の場所はパンフレットで確認済み。頭の中にちゃんと入ってる。1階の中庭のすぐ側だ。

てっきり反対してくると思ったのに、唄子は保健室という言葉を聞いた途端、俺の腕を放し一歩後ずさった。

「あたし、保健室には行かない」

「…?」

元々この女がサボるとは思っていなかったが、あまりにも暗い表情と有無を言わさぬ口調に、俺は何かあると感じた。

「たとえ心臓発作で倒れようと、全身骨折で瀕死になろうとも、あたし保健室にだけは絶対行かない」

「ま、まぁその場合は救急車呼んで病院直行だろうしな…」

いつものことだが、コイツの考えてることは全然わからない。なぜそこまで保健室を毛嫌いするのだろう。トラウマでもあるのか。

「怪我してあそこに行くぐらいなら、あたし麓に診療所つくってやる」

「…お前、なんでそんな嫌がるんだ? 保健室に何があるんだよ」

異常なほどの拒絶に、俺は理由が知りたくなってきた。だって昨夜と今朝にかけて読んだ、唄子の漫画のちょっとアレなシーンの8割が、保健室でのことだった。唄子にとっては大好きな場所の1つでもおかしくない。
それなのに唄子ときたら、真っ青な顔をして首を振るばかりだ。

「とにかくアソコには、行かない方がいい。警告よ、キョウちゃん」

「いやー…そこまで言われると逆に行きたくなるっていうかー…」

好奇心丸出しの俺を鋭い視線で睨みつける唄子。明らかにいつもと様子が違っている。

「キョウちゃんの馬鹿! キョウちゃんだって、行ったら絶対後悔するんだからね!」

「え、ちょ…おい唄子!」

捨て台詞を吐き捨てて、唄子は逃げるように去っていった。俺が止める間もなかった。

「待てってば! せめて何があるか言ってから行けよ! 何なんだよ、気になるだろ!」
















唄子に逃げられた俺は、結局何なのかわからないまま保健室の扉の前に、1人立っていた。いまだドアを開けることが出来ない。早く開けたいような、このまま知らない方がいいような。

けれどしばらく躊躇った後、やはり好奇心には勝てず、俺は迷いを断ち切るかのように勢い良くドアを開けた。

「先生、ちょっと体調が悪いんで休ませ……」

俺の言葉が無事に続くことはなかった。目に飛び込んできたその光景は、俺の許容範囲を軽く越えていたからだ。


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あきゅろす。
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