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ストレンジ・デイズ
□響介と善と菘のお泊まり会
短編。ほのぼの



夜。寮の部屋でくつろいでいた俺は扉を叩く音に渋々ベッドから起き上がった。ドアの叩き方で相手が善だとわかったので、仕方なく扉を開けた。

「ご、ごめんキョウ。ちょっといい?」

善は一人ではなく、しおれた鬼頭菘を担いでいた。俺は舌打ちをして善に迷惑をかける鬼頭を睨み付けた。

「また例の発作か」

「そうなんだけど……昨日全然眠れなかったみたいで」

「ちょ、おい、お前はいいけどコイツ入れんな」

「無茶言うなよ」

善が鬼頭を部屋に連れてくるのを嫌々受け入れる俺。鬼頭はといえば善にしがみついたまま、ぐずぐず泣いていた。

「う、ううえええん」

鬼頭は少し前に結婚を誓っていた小宮今日子が突然転校し、二度と会えなくなってしまったショックで定期的にこんなメンタルになってしまうのだ。いくら親の金を使って探しても女は見つからず、日に日に情緒不安的になっていく鬼頭の姿を見て最初こそほくそ笑んでいたが、ここまでくると責任を感じてしまう。

「菘、大丈夫? ほら、キョウのところに連れてきてあげたよ」

善は元々一人部屋だったが、日々泣き暮らす鬼頭のために先日から相部屋になっていた。ルームメートが善だなんて羨ましいことこの上ない。

「キョーコさん!」

キョーコさんではないとわかっているはずの鬼頭が俺に抱きついてくる。俺は条件反射で突き飛ばしてやりたくなったが、善に「我慢して〜〜」と頼まれると何もできなかった。

「おい、あんまベタベタすんな気持ち悪い」

「もっと、もっとしゃべって……」

「さっきからキメぇんだよお前」

罵倒しか口にしない俺に大満足の鬼頭。俺の声が小宮今日子にあまりにそっくりなため、俺の声を聞くと段々正気を取り戻せるようになったのだ。そのため善は困ったときには俺のところに菘を連れてくるようになった。

「キョーコさんの声、落ち着く……」

俺の声だけで寂しさを埋めようとする鬼頭に悲しくなる。ここまで小宮今日子に執着していたとは思わなかった。早く新たに殴ってくれる相手が見つかればいいのに。

「真宮くんの部屋のベッド……なんでこんなに広いの」

「いいだろそこは別に」

正気を取り戻してきた鬼頭に痛いところをつかれて焦る。これは香月が俺のために運び込んだセミダブルのベッドだ。他の部屋は一人でも二段ベッドを使っているのに、端から見れば謎の特別扱いだろう。

「これはキョーコさんの腰つき……」

「うわっ、やめろ馬鹿」

鬼頭にベッドに押し倒されて逃げようとするもがっしり腰を掴まれて動けない。しばらくそうして我慢してやっていると、少し復活した菘は鼻をすすりながら善を見た。

「善もキョーコさんのことで落ち込んでいたはずなのに、どうやって立ち直ったんだよ」

「それは……」

善が後ろめたそうに俺を見る。間違いなく俺の正体が善に知られたのが理由だ。

「なあキョウ、菘にもほんとのこと言った方がいいんじゃない?」

善の小声の提案に俺は迷わず首を振る。

「あほ、本当のこと言ってコイツがショックで自殺でもしちゃったらどうするんだよ」

善と鬼頭は違う。善は俺が男でもかまわないと思ってくれたが、鬼頭はそうではないだろう。こんなに狂おしい程愛していた小宮今日子が本当は地味な男だと知った時の衝撃は計り知れないはずだ。

「まあ、それはそうかもしれないけど」

「……あれ、コイツ寝てる?」

俺の腰に抱きついたまま寝息をたてる鬼頭。そういえば昨日は寝てないとか言ってたか。

「寝るなら自分の部屋にさっさと戻って……あれ、なんだコイツ離れねぇぞ」

しっかり俺の腰を固定して離さない鬼頭。善と二人がかりでなんとか腕をはずそうとするも、そのたびに目が覚めて「うえええん」と泣き出す。赤子か?

「仕方ない。今日はもうここで寝かせよう」

「いや善なに言ってんの? こいつと俺の部屋で一緒に? 嫌だよ」

「俺もここで寝るから。お泊まり会みたいなものだって。皆よくやってるよ」

「……」

確かに男子寮ではそういう会があり、俺は密かに憧れていた。しかもそれを親友の善とできるのであれば、腰にまとわりついている変態にも我慢してもいいかもしれない。

結局、鬼頭を運ぶ方法が見つからず俺達は3人で眠ることになった。鬼頭に抱き締められたまま横になると、善は鬼頭の隣に横になった。

「え、善そっち?」

「当たり前だろ」

「何でだよ」

なぜ鬼頭を間に挟まなければならないのか。これでは鬼頭の大きな身体で善が見えず会話もうまくできない。

「あのな、キョウは俺が告白したの忘れたのか?」

「えっ、いやでも、あれは……」

もうすっかりなかったことになって友達になったんじゃなかったの? という言葉を飲み込む。あれからずっと普通だったので、善がそんなに俺を意識していると思わなかった。

「ごめん。別に何かする気はないけど、目のやり場に困るから」

「俺のどこにそんな困る要素が」

「俺はこれからもキョウと仲良くしていたいから、菘バリアは絶対必要なんだよ」

「俺がコイツに抱き締められてるこの状況はいいのか?」

「菘は無理やり襲ったりするような奴じゃないから大丈夫。それに菘が好きなのは、キョウじゃなくて小宮今日子だし」

「いやでも寝ぼけて今日子と間違って襲ってくるかもしんねーじゃん。こいつだいぶ切羽詰まってるみたいだし」

「その時は俺が身を呈して守るから、安心して」

その頼もしい一言の後、しばらくして善は一人で勝手に寝てしまった。俺を守るという話はどうなったのか。いや鬼頭もすやすやと眠ったままだが。
せっかくのお泊まり会だというのに、本当に寝るだけになるとは。俺は不満を持ちながらも仕方なくそのまま眠りについた。




翌日、俺は何かに顔を舐められているという不快感で目が覚めた。目を開けると何故か鬼頭が俺の口というか顔のいたるところにキスをしていた。

「ひい! 何しやがる!」

「キョーコさん、可愛い〜……」

「この寝ぼけ野郎、目を覚ませバカ!」

鬼頭の頬を渾身の力をこめて叩くと、目を開けた鬼頭と目があった。

「……キョーコさんじゃない」

「当たり前だろ」

「おぇぇ……ぺっぺっ」

「おいテメー何ぺっぺっしてんだコラ」

正気に戻った鬼頭が顔をしかめて俺から離れ、一人そそくさと洗面台へ向かう。

「うえぇ、口ゆすぎたいよぉ…」

「こっちの台詞だボケ! おいっ、善も起きろ! 俺が鬼頭にペロペロされてお前は平気なのかよ!」

俺のピンチにも何もしてくれない親友を叩き起こす。しかし善は枕に顔を埋めて起床を拒否した。

「んん……あと5分〜……」

「もー! お前らさっさと俺の部屋から出ていけ!」

好意でこの部屋に寝かせてやったのになんたる仕打ちか。キレた俺の怒鳴り声は男子寮に響き渡っていた。




おしまい
2022/10/13


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