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ストレンジ・デイズ
□香月博美


その日の夜、俺の部屋に忍び込んできた香月はあからさまに拗ねていた。あの場では善がいたので香月が深く問い詰めてくることもなかったが、今は何を言われるかわかったものではない。俺は久しぶりに会った香月が傷だらけなのが気になったが、それを訊ねられる雰囲気ではなかった。

「どうして八十島くんとあんなにくっついてたんですか? その姿になってからはそんなに仲良くなかったはずですよね」

「目が怖いよ…」

瞳孔が開いて瞬きもしないので目が合わせられない。断じて浮気などではないが、後ろめたい気持ちがあるのも事実だ。

「えっと、実はですね……善に俺が小宮今日子だとバレまして……」

「どうしてそんなことに? 自分でバラしたんですか?」

「えーっと」

香月の尋問は執拗で巧みなので数分で全部白状させられてしまった。すべてを聞いた香月は俺の目の前で項垂れていた。

「何ですかそれは…じゃあ八十島くんの気持ちを知っていながらあんなにベタベタしてたってことですか? 信じられない……」

「別にベタベタしてたわけじゃなくてだな」

「自分は俺が藤堂先生とか新名先生と喋っていただけでめちゃくちゃ怒るくせに八十島くんとあんな親密に……」

「いやいやあれはお前が無駄に笑顔振り撒いてるから……いや、ごめん。親友の善を無下にできなかったんだよ。でも俺が付き合ってるのは香月だし、善の告白はちゃんと断ったから」

「そうですかーー」

香月が完全に怒っている。俺は商品のプリンを冷蔵庫から差し出して機嫌を取ることにした。

「ほらこれ、香月に食べさせたくて俺が勝ち取ったプリン。数量限定ものだぞ。これやるから。こっち向いてくれよ」

「……」

香月がようやく俺の方を見てくれた。俺がスプーンと共に差し出すと、モソモソと食べ始める。

「……おいしい」

「良かった!」

香月に食べてもらいたくて勝ち取ったので喜んでもらえて嬉しい。しかし改めて見ると香月には頭の怪我以外にも傷がいたるところにある。

「お前……事故にでもあったのか?」

「キョウ様のご実家に行って、旦那様にお願いしたんですよ。響介様とお付き合いさせてくださいって」

「え!?」

「そしたら旦那様にボコボコにされまして。黙って殴られてたらこのざまです」

「じゃあそれ祐司にやられたの!?」

「そうです」

「はー!? 何で俺に言わないで勝手に一人で行くんだよ」

「一応実家に行って話をしてくるとは言いましたよ」

「そんな大事な話してくるとは思わないだろ〜! 祐司の奴!」

俺の香月を祐司ごときが傷つけたなんて大問題だ。俺がその場にいればそんなこと絶対にさせなかったのに。

「落ち着いてください、どうしても一人で話をつける必要があったんです。響介様が同席していては、響介様に嫌われたくなくて認めるふりをされる可能性があったので。その場合、裏で俺達を別れさせようと画策してきたかもしれません」

「まぁ、確かにそれはあるかもな」

「それに最終的には認めてもらえました。俺が認めてもらうまでここを動かないと言ったので」

「ほ、本当に? 祐司がそんな簡単に受け入れるとは思えねぇんだけど」

「簡単ではありませでしたよ。殴られた後は響介と別れるって言うまで部屋から出さないって言われてお水しかもらえなくて。でも旦那様の方が一日で音を上げてご飯くれましたね。俺はあと三日は大丈夫だったんですが」

「はああ? 祐司のやつ香月に何してくれてんだよ。ぶっ殺してやる」

「駄目駄目、せっかく旦那様が認めてくれたのに余計なことしないでください!」

「……」

確かに香月の言うとおり、親に認められたというのは大きい。男同士という以前に、俺は未成年。しかも信用して任せたお世話係とそういう関係になったのだ。確かに俺が親でも怒る。

「一度また響介様を交えて話し合いをする事になりましたので、その時は俺との関係を一時的なものでなく、本気だと言っていただけると助かります……」

「香月お前……。ありがとう」

俺は疲れきって今にも倒れそうな香月を抱き締める。改めてこの目の前のかけがえのない相手を一生大事にしようと心に誓った。


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