ストレンジ・デイズ
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その後色々と話し合ったもののまともな案は出ず、今日のところは解散となった。今日は居残り勉強もないので夕食の時間まで部屋で寝てようかと寮に向かっていた時、すれ違ったデフの連中の会話が少し聞こえて思わず立ち止まった。
「向こうで八十島絡みで生徒会の奴が竜二ともめてるって」
「風紀はまだ来てねぇのか?」
「見に行こうぜ」
男達の会話が不穏すぎてそいつらの後をこっそりつける。善が怪我をしていないか。それだけが気がかりだ。
たどりついたのは人気のない体育館の裏で、言い争う声が聞こえた。何人かデフのギャラリーも集まっている。
「しつけぇんだよ。二度と善に近づくなこの変態!」
「やめてください、竜二先輩」
戸田の胸ぐらを掴み上げ凄んでいる男には見覚えがある。遊貴先輩の友達の余目竜二だ。そいつを善が必死に止めていた。
「生徒会だとか関係ねぇ。これ以上善にしつこく言い寄るならまともに歩けねぇくらいボコボコにしてやる」
「先輩! 駄目ですって。そんなことしたら」
「何でだよ、お前だってこいつに迷惑してるだろ」
「俺が話してわかってもらいますから」
止めようとしているのは善だけで周りのデフは面白そうに傍観してるかもっとやれと囃し立てて盛り上がっているだけだ。その中に見知った顔を見つけて俺は慌てて話しかけた。
「ゆーき先輩!」
「響介? お前なんでここに」
「騒ぎを聞き付けて……何なんですか、これ」
「ああ、何か昨日あの生徒会の男が八十島に告白したらしくて……断ったそうなんだけど、諦め悪くてな。竜二が彼氏面して釘刺してるとこ。竜二、八十島のこと好きだから」
「はあ、なるほど。なんか殺しそうな勢いっすけど、止めなくていいんですか?」
「まあさすがに生徒会相手はヤバいから、殺す前には止めるわ」
夏川達に報告した方がいいかなと思ったが、一発殴られて善を諦めてくれるならその方がいいかもしれない。やばくなったら遊貴先輩に止めてもらえばいい。俺は先輩の後ろに隠れながら様子を見ていた。
「善はな、俺と付き合ってんだよ。お前の出る幕なんかないわけ。わかったら殺される前にさっさと消えろ。二度と善に近づくな」
付き合ってるの!?と驚いたが善の顔も驚いていたので多分余目が勝手に言っているだけだろう。しかしこんな怖い彼氏がいるならさすがの戸田も諦めてくれるはずだ。というか諦めてくれ。
「嫌だ!」
戸田のハッキリとした拒絶に全員が驚く。戸田は身体を生まれたての子鹿みたいにガクガク震わせながらも余目に立ち向かっていた。
「八十島君は、俺がようやくで会えた運命の相手なんだ。彼氏がいようといまいと、俺は絶対に諦めない。俺の恋人になってくれるなら何でもする」
「て、てめぇ……」
「殴りたければ好きに殴ればいい。それを理由に君を退学にして、別れさせるだけだ」
「調子に乗りやがって! ぶっ飛ばしてやる!」
「先輩ー!!」
躊躇なく殴ろうとした余目を善が全力で止める。遊貴先輩もいつでも止められるように少し前に出ていた。
「駄目です先輩、退学になりたいんですか?」
「止めるな善! そういうことを言ってくんのが腹立つんだよ! 俺が退学なんかにビビると思ってんのか?」
「ビビるとかじゃなくて! 戸田先輩っ、今のうちに逃げてください」
余目の説得は難しいと判断したのか、今度は戸田の方を何とかしようと声をかける。しかし戸田はそこを断固として動こうとしなかった。
「俺は逃げない。どれだけ殴られようと耐えてみせる。八十島くんへの気持ちは変わらない」
「気安く名前呼んでんじゃねぇぇえ」
善を振り払って戸田を殴ろうとした余目をいよちよ遊貴先輩が前に出て止める。「落ち着けこの色ボケ野郎」と酷いことを言われていた。
「俺は八十島くんと付き合えるなら何でもする。八十島くんは優しくて強くて誰よりも綺麗だ。俺を恋人に選んでほしい」
戸田が善の手を握って愛の告白をする。さっさと断ってやれと思ったが、善は何故かその手を振り払おうとせず顔が少し赤くなっている。それを見た余目が泣き叫んだ。
「善!? 何でそんな顔してんの!?」
「いや、こんなこと言われたの初めてだったから…」
「俺だって毎日言ってんだろ!!」
「先輩は可愛いしか言わないし」
満更でもない善の顔を見てショックだったのは余目だけじゃない。何故か俺も戸田と善が付き合うのは絶対に嫌だと思ってしまった。
「ゆーき先輩っ、余目先輩の手を離してください。こいつは一発殴っといた方がいいと思います」
「何言ってんだ響介!?」
余目に殴らせようとする俺にびっくりする先輩。その時ちょうど風紀委員が騒ぎを聞き付けやってきたので、全員蜘蛛の子を散らすように逃げていった。俺は逃げなくても良かったが、遊貴先輩に引っ張られたのでそのまま先輩と一緒にそこから退散することになった。
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