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ストレンジ・デイズ



そして次の日の放課後、唄子が用意した女子の制服をさっそく二人に着てもらった。サイズがあまりにもぴったりだったので、二人はかなり驚いていた。

「これがキョーコさんの着ていた服……キョーコさんの匂いがする気がする」

「いや、それはキョウちゃん着てないよ。サイズ間違えて買っちゃってたやつだから」

制服に鼻を埋めていた鬼頭が唄子の言葉に真顔になって嗅ぐのをやめる。昨日あの後、俺の制服は入らないのではと唄子に訊ねてみたところ本当は俺の制服は香月がすべてちゃんと回収済みであることをおしえてくれた。俺の忘れていった制服、という体で二人にあう大きめサイズの制服を唄子がすぐに用意するとのことだ。さすが理事長の孫である。

部活動があるので手短にと善から念を押された俺と唄子はさっそく二人のメイクを始めた。唄子はいつも俺のやり方を見ていたから指示してくれれればある程度はできる、と言うので途中俺が手直ししながらも善の方を任せることにした。本当は俺が善の方にいきたかったが、鬼頭が女子に触られるのは無理だと断固拒否したため俺が鬼頭の顔をベタベタ触る羽目になった。

「おい、目は閉じてろ」

善も鬼頭もすでに唄子が用意した制服を身にまとっていた。鬼頭は帰宅部のくせに良い体つきをしていたので、あまり女装向きとは思えない。鬼頭は男のくせに真っ白い透き通るような肌で、美肌の無駄遣いだ。

「こうしてみると、お前結構女装に向いてるかもな。外国人なら、多少体つきがしっかりしてても自然だし」

「真宮くんって……」

「ん?」

「目つぶって聞いてると、キョーコさんに声がそっくり」

「そ、そうかぁ? まあイトコだしなー」

俺が小宮今日子だとバレたらどうしようと一瞬怯む。笑って誤魔化していると鬼頭がうつむいてぼそぼそと何か言っていた。

「キョーコさん…会いたいよ……」

「えっ、ちょ、なに泣いてる?」

鬼頭はポロポロと涙を流して小宮今日子の名前を呼んでいる。さすがの俺もこれには慌てた。

「おい、泣くなって。泣いたらアイシャドーが……じゃなくて、女なら他にもたくさんいるだろ。この学校にはいなくても、世間には美女が星の数ほどいるしお前の顔なら余裕で付き合えるから」

「いやだ……キョーコさんがいい……」

「……」

こいつの事は正直最初から最後まで気持ち悪かったが、小宮今日子への気持ちは本物だったんだなと今更ながら気づく。そしてその執着心を見てると、男で良かったとも思う。

「よーし、できた。ほら、カツラつけろ」

鬼頭には金髪カール、善には黒髪ロングだ。これも昨日のうちに唄子が用意していた。俺は唄子の方を手伝いにいったが、善となかなか目が合わない。仕上げを俺が終えると、善はウィッグをつけて完成形の鬼頭と並んだ。

「俺、部活に遅れるからさっさと投票始めようぜ!」

「善、似合うな……」

鬼頭にそう言われてまんざらでもなさそうな善。善の本格的な女装に、いつの間にか見学者が廊下に溢れていた。サッカー部もいるが、中にはどこから噂を聞きつけたのかデフの連中までいた。

あまりにもギャラリーが増えたのでさっさと投票を開始したところ、僅差で善の投票数が多かった。鬼頭も悪くはなかったが、制服がやや小さくて筋肉質なのがわかりやすくなっていたのが敗因だろう。脱いだら意外といい身体だった。一体いつ鍛えているのか。

「じゃあミスコン出場は善ってことで! カップルのお二人さん、当日もメイクよろしくな」

「りょうかーい」

最早カップルじゃないと否定するのも面倒になってスルーする俺と唄子。唄子は善の女装の出来の良さに涙を流して感激していた。

「善、お前それ似合ってるからしばらく着とけよな」

「いや、これから部活っすよ真柴先輩……」

「いーから! 先輩命令!」

善が覗きに来ていたサッカー部の先輩に馴れ馴れしく肩を組まれているのを見て嫉妬心が燃え上がる。昔は俺の方が善と仲良かったのに、今ではこんなにも壁ができている。善は誰とでも仲良くなれるタイプだと思っていたが、真宮響介に戻ってからは何をしても距離を縮められない。意図的に避けられているのかとも思ったが、理由がない。

この日の善と鬼頭の女装はこの学園のちょっとした話題になった。写真はあっという間に校内で拡散して、優勝候補だと話題にもなった。しかし善に女装をさせたことで、新たなトラブルを生み出すことになるとはこの時の俺はまだ知るよしもなかった。


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あきゅろす。
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