ストレンジ・デイズ
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そしてHRで俺達は一人一人ミスコンに出て欲しいと思うクラスメートに投票することになった。ちなみに選ばれた奴に拒否権はないらしい。恐ろしい制度だ。
「なあ唄子。他のクラスは誰が出るかもう決まってんの?」
「B組がもう投票したらしいんだけど、七竈さんになったみたいよ」
「七竈って……あの巨乳の!?」
「きょ……そうだけど」
「女じゃん!」
「ミスコンなんだから女子でもいいでしょ」
「あ、そっか……」
じゃあ女子のいる一年が圧倒的有利じゃんとも思ったが、女子の面々を思い出してそうでもないかと思い直す。しかし小山内が駄目なら誰が選ばれるかわからない。しいていうなら柊は男子から人気があるみたいだが、美人というよりマスコット的可愛さが勝っている。
紙での匿名投票はつつがなく進み、黒板に投票用紙に名前があった生徒の名が書かれていく。意外なことに、二人の生徒に投票が集中していた。八十島善と鬼頭菘だ。確かに二人は揃って顔がいいが、女装して似合うかというとあまり想像できない。それとも、美しさがどうのというより単に人気があるかどうかが重要なのだろうか。
途中、小山内に一票入ってクラス全員がちょっとざわつく。唄子と小山内本人に責めるような視線を向けられ顔を背けた。俺だけが入れたってどうせ選ばれないんだからいいじゃねえか。
すべての開票が終わり、結果は善と鬼頭が同数で決着がつかなかった。しかし選ばれた二人はあまり乗り気ではなさそうだ。
「俺、うまく女装できる自信が……菘の方がいいんじゃない?」
「僕の身長わかって言ってる? 善の方が可愛い身長してるじゃん」
「俺だって180近くあるんですけど」
鬼頭が「僕、けっこう筋肉あるから女物でサイズがあう服なんかないと思う」と言えば「俺の方が部活してて筋肉ついてる!」と善も言い出し押し付けあいが始まる。するといつもは大人しくしている唄子が手を上げて立ち上がった。
「じゃあ、実際に二人に女装してもらって決めたらいいんじゃない?」
「えっ」
「女子用の制服で良ければ、小宮今日子ちゃんが置いていったのがあるからそれを着てもらって。多少破れたりしても問題ないし、キョウちゃん結構サイズ大きめの制服も持ってたから」
「キョーコさんの制服!?」
俺の制服と聞いて鬼頭が大声を出す。制服の存在などすっかり忘れていたが、まだ唄子の部屋にあったのか。善はともかく鬼頭に着られるのには少し抵抗があったが、置いていても捨てるだけだし使ってもらうのは問題ない。
「メイクはここにいる真宮くんの得意分野だから任せて。今日子ちゃんにメイク指導したのは真宮くんなんだから」
「えっ」
突然唄子に俺の名前を出され動揺する。俺がするの?と目で訴えかけるも、できるだろとばかりに笑顔で制止された。
「真宮くんは将来メイクアップアーティストを目指してるのよ」
「は、はあ? お前何言って……」
「私も手伝うし、やってくれるよね。真宮くん」
肩に思い切り力を込められ顔をしかめる。頷くしことしかできない俺に善の友達の啓太が笑顔で話しかけてきた。
「ありがとう真宮くん。じゃあまた明日、服もメイク道具も用意して再度投票し直すということで」
「はあ」
よくわからないうちに方針が決まってしまう。善は勘弁してくれという顔をしていたが、友人の啓太が善を励ましていた。
「そんな顔するなよ〜善ならこのカップルに任せれば美少女間違いなしだって」
「「カップルじゃない」」
俺と唄子が同時に否定するも、恥ずかしいんだなという生暖かい目を向けられながら頷かれてしまう。こうして俺は唄子と共にミスコンのメイク、衣装担当に抜擢されてしまった。
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