ストレンジ・デイズ
□小山内希望、鬼頭菘
次の日、HR前の休み時間に俺は唄子からとんでもない話を聞いた。
「ミ、ミスコン…?」
「そう! 最神学園のミスコン。毎年あるのよ」
「ミスコンって、あれだろ。女達が美を競いあう的な……なに、毎年?」
一年に一度行われる最神学園ミス・コンテストは各クラス1人代表に選ばれてその年の優勝者が決まるらしい。その代表を決めるため今から投票するとのことだ。
「いや、ここ男子校だろ!?」
百歩譲って今年からならまだわかるが男しかいないのにミスコンって何だ。ミスターコンテストということなのか?
「いやでもそういうのなら前にやったじゃん。ほら、抱きたい抱かれたいランキングみたいな」
「あれとは違うわよ。ミスコンだって言ったでしょ。全員、女装して出るの」
「はあ!?」
大声を出した俺に全員の注目が集まる。俺は縮こまりながら小声で唄子を問い詰めた。
「なんだそれ、本当にそんなの毎年やってるのか?」
「もちろん。ちなみに優勝したクラスには、クラス全員に最神学園名物プリンが商品として支給されます」
「プリン…?」
「食堂にたまにあるやつ。すぐ売り切れるからキョウちゃん知らないでしょ」
「知らない。うまいの?」
「美味しい! 一度は食べてほしい!」
1日10個限定で販売されているそれは、発売と同時に瞬殺で売り切れてしまうので殆どの生徒が口にしたことはないそうだ。唄子は理事長の孫特権で食べたことがあるらしいが、その味は舌の肥えた金持ち連中ですら唸るほどの絶品らしい。
「それはいくらなんだ?」
「1個250円だけど」
「10倍払うから手に入らないかな?」
「ならないよ」
金で解決しようとする俺に蔑みの目を向ける唄子。ミスコンとやらに興味はないがそのプリンには興味が出てきた。香月にも食べさせてやりたい。
「で、今日のHRでミスコンの1-A代表を決めるための投票をするってわけ」
「生け贄じゃん」
「いやいや、みんな結構ノリ気だから。あーあ、キョウちゃんが女装できたら優勝間違いないんだけどな〜」
「それは確かにそうだけど。あっ、そうだ。俺が無理なら小山内に出てもらえばいいじゃん。アイツが出れば優勝間違いなしだろ」
「えっ? いやー、それはやめた方がいいんじゃ」
「本人にきいてくる!」
「ちょ」
小山内は小宮今日子のことが好きだったが、もちろん俺がその本人だとは伝えてない。女装していない俺と顔をあわせたことがあるが、その時マスクをしていたおかげで今のところバレていないようだ。一度小宮今日子の連絡先をきかれたこともある。小山内だけでなく色んな奴らがしつこく連絡先をきいてきたので、俺は知らないから二度ときくな!!と教室中に響く声で怒鳴ってからはクラスの連中は諦めてくれた。
「小山内、ちょっとツラ貸せ」
「えっ、真宮くん?」
たいして仲良くもない俺に腕を引かれ壁際に追い詰められる小山内。相変わらずダサい格好をしているもやし男だが、俺には可愛く見えている。
「な、なに? 僕お金は持ってないんだけど…」
「ちげーよ。お前の素質を見込んで頼みたいんだけど、今度のミスコンに出てみないか? メイクは俺がするから」
「えっっ」
「お前なら絶対優勝できる! 俺を信じて任せてくれ。周りを説得するためにも一度メイクした姿を見せた方がいいと思うけど」
「僕、そんなの出られないよ…」
「自信もてって。注目されるのが困るなら、匿名で出てもいいと思うんだ。夏川に頼めば許可してくれるだろうし……」
「や、やめて」
小山内が泣きそうになりながら俺の腕に触れる。元の顔を知っているだけにその可愛さのあまり胸が高鳴った。
「小宮さんから聞いてるかもしれないけど、僕小宮さんに告白してフラれてるんだ。それはちゃんと受け入れて、もう諦めてる。でも小宮さんのことを好きだった男として、強く逞しくなりたいと思ってるんだ。たとえ小宮さんと二度と会えなくても、もっと格好良くなりたい。だからごめん、女装はしたくない……」
「……」
小山内の言葉に俺は返す言葉もなかった。そんなに俺のことを好きでいてくれたのかいう驚きと、強くなることを諦めていなかったことに感心していた。
「わかった。無理なこと言って悪かった」
「ううん! こっちこそ、せっかく言ってくれたのにごめんね…」
「今のお前見たら、今日子も見直すと思うぜ」
俺は小山内の頭を撫でて奴を解放してやる。小山内視点だと俺が何の立場から物を言ってるのか謎だが、俺は奴の頑張りを密かに応援することにした。
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