ストレンジ・デイズ
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昼食後、一人教室に戻ろうとしていた俺は背後から声をかけられた。振り返ると夏川が俺を追いかけてきていた。
「響介っ」
「なんだよ。俺と話してたら漢次郎の機嫌が悪くなるんじゃねぇの」
「えっ、嫉妬?」
「馬鹿なのか?」
俺のマジトーンに明るく笑う夏川。冗談だったらしい。
「あいつはまいてきた。荒木ともめてんだって? 大丈夫なのか?」
「平気だよ、あんなやつ」
荒木はいけすかない男だが、何故か俺に告白してきてそれをバッサリ断ってからは友人として接している。俺の命を助けてくれたこともあるので、悪人ではないと今では思っている。
「それでも何かあったら連絡しろよ。今は特に心配だし」
「大丈夫だって」
「たまたま戸田がいたから助かったんだろ? あいつから聞いた」
「……その戸田だけど、本当に前からいたのか? 生徒会役員だっていうのに、存在も知らなかったんだけど」
俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手だが、ここまで何も知らないなんてありえるのだろうか。生徒会役員なのに、食堂で見かけたこともない。
「響介がアイツを知らないのも当然だ。今まで俺達が会わせないようにしてたからな」
「何で?」
「……あいつの悪癖が出ないようにだよ。戸田は普段はいい奴なんだけど、ちょっと前に一人の女に入れ込んでストーカーになったことがあって。その女はお前に似た美人だったんだ」
「ストーカー? あの無害そうな男が?」
もうあんまり覚えてないが、そんなことをするタイプには見えない。夏川のような派手さはないが、生徒会に入るだけあって整った顔立ちをしていたように思う。
「そんな風に見えないだろ? だからその時は俺達マジで頭がおかしくなったのかと思ったよ。ついには無断外出してその女の家にまで行ったんだから。成績も急降下するし、どうにもならなくなった。お前と会ってまたおかしくなったら困る」
人は見かけによらないものだ。どちらかというとストーカー被害にあいそうな男なのに。
「でも…自分で言うのもなんだけど、俺ってめちゃくちゃ目立ってなかった? 俺を見ないで過ごすとか無理じゃない?」
マラソン大会でも決勝まで残ったし、抱きたい生徒ランキングにだって入った。この短期間で目立てることはやりくしていた気がする。
「そこは俺達が頑張った。戸田に学校の中では授業以外眼鏡をはずすようにしてもらったんだ。眼鏡ないと何にも見えないから、アイツ。移動するときは怪我しないように俺達がサポートした。戸田も自分がおかしくなる自覚はあるから、小宮今日子っていう嘘みたいに綺麗な女子がいるって言ったら協力してくれたよ」
「俺の知らないところでそんな苦労を……」
いずれにせよ俺が女装している間に出会うことがなくて良かった。ただでさえストーカーみたいな奴がいっぱいいたのに、そこに本格的なストーカーまで現れたら困る。
「その女子へのストーカーは、どうやってやめさせたんだ?」
「それも俺らが頑張った。ハルキの姉がまたすごい美人なんだけど、お姉さんに頼んで戸田を誘惑してもらったんだよ」
「トミーのお姉さん?」
トミーの姉、すごい美人、に反応してしまった。ちょっと見てみたい。
「でもそれじゃ、その女子じゃなくてトミーのお姉さんをストーカーするようになるだけじゃ」
「元々お姉さんは留学する予定だったから、そのまま海外へ行ってもらった。それでそのままそっちで結婚して、以降戻ってない。戸田もさすがに海外まで行ってストーカーはできなくて、段々元の正常なアイツに戻ってくれたんだ」
「良かったな」
なんだ既婚者か、と一瞬思ってしまい、恋人がいるのにトミーの美人の姉に興味を持ってしまったことを心の中で反省する。
「俺の他にこの学校に美女はいないし、もう安心だな」
「自分で言うなって感じだけど、そうだな。でも今の姿のお前も結構俺の好みだけど?」
「そういうのいいから」
俺はその後夏川と言い合いしているうちに戸田のことは忘れてしまった。まさかその後、彼のその悪癖に困らされることになるとは夢にも思っていなかった。
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