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ストレンジ・デイズ



遊貴先輩に連れてこられたのは、以前小山内と共に乗り込んだ苦い思い出のある西館校舎の教室だった。デジャヴに苛まれながら先輩の後について行く。今回は先輩が一緒なので大変なことにはならないと思うが、荒木という男は油断できない相手だ。

「荒木さん、連れてきました」

荒木は教室の奥に一人座っていたが、周りに仲間もいないし以前見たときのような威勢はなくなっていた。前は仲間に囲まれて不良とは思えない程綺麗な顔をしていたが、今は随分とやつれているように見える。

「…お前が真宮響介、で今日子の従兄弟か」

「そうっすけど」

「似てねぇな」

まじまじと無遠慮に俺を見る荒木に俺も睨み返しそうになるが、先輩に小突かれて目を伏せる。こいつに逆らわない方が良いのはさすがの俺でもわかる。

「まあいい、てめぇ今日子の従兄弟なら連絡先くらいわかんだろ。さっさとおしえろ」

「えっ、無理です」

「あ?」

鬼の形相で凄まれ少し後ずさる。少し正直に言いすぎたかとも思ったがそう言うしかないのだから仕方ない。なんとかうまいことやってくれと遊貴先輩が視線だけで訴えてくる。

「いや、あの、何とかしたい気持ちはあるのですが、小宮今日子はもうここには二度と戻らないつもりみたいなので、俺としてもどうにも…」

「頼む! 俺は今日子に会って言わなきゃならねぇことがあるんだ。会うのが無理なら電話でもいい」

荒木に頭を下げられ面食らう俺。俺だけじゃなく遊貴先輩も驚いている。不良のトップがそんな簡単に俺みたいな生徒に頭を下げていいわけがない。つまりこいつは、それほどまでに今日子が好きなのだろう。ならば変に期待を持たせるよりばっさり諦めてもらう方がいい。

「悪いっすけど、無理なもんは無理! 今日子は二度と日本に戻る気ないみたいだし、もうあいつのことは忘れた方がいいっすよ」

小宮今日子は架空の存在。そんなものに惚れていてもいいことはない。100パーセント善意の言葉だったのに、荒木は突然俺の胸ぐらを掴み上げた。

「てめぇ…さっきから下出にでてりゃムリムリ言いやがって、俺のいうことがきけねぇってのか?」

「いえ! 決してそういうわけでは〜…」

「上等だ、表出ろコラ!」

「すんません荒木さん! こいつも悪気があるわけじゃないんです! 勘弁してやってください!」

遊貴先輩が俺をかばってくれようとしたが、荒木の怒気に押され気味だ。このままでは先輩ごとヤキ入れられてしまうかもしれない。なんとか隙を見て逃げ出そうと思っていた時、教室の扉が開いた。

「廊下まで声聞こえちゃってるけど…何してるの? 荒木くん」

そこにいたのは眼鏡をかけた見たことのない生徒だった。とても不良には見えない、むしろ優等生のような容姿だ。

「と、戸田! お前何でここに…」

わかりやすく動揺する荒木が俺から手を離す。戸田と呼ばれたその生徒はずかずかと教室に乗り込んでくる。

「うわ、ダメだよ。その子転入生でしょ。新人いじめなんてらしくないな」

「別にいじめてねぇよ! つかお前に関係ねーだろうが」

「じゃあ何してるの?」

「それは…っ」

あの荒木がやりこめられている。一体何者なのだろうとじろじろ見ていると、彼が振り返り笑いながら言った。

「転入生の真宮くん? だよね。荒木くんが怖がらせてごめんね。やめるように言っておくから、戻ってもいいよ」

優しい口調でそんなことを言う彼を真正面から見て、かなり男前だと言うことに気がついた。荒木に比べると地味ではあるものの、優しそうな好青年だ。

「あ、ありがとうございます」

礼を言う俺に戸田は笑顔で頷き、荒木を連れて出ていってしまう。育ちの良い顔をしているのに不良の荒木をまるで怖がっていない。彼はいったい何者なのか。

「ゆーき先輩、あの人って誰ですか…」

「えっ、お前知らねぇの? どんだけ周りに興味ねぇんだよ」

確かに俺は人の名前と顔を覚えるのが苦手だ。転入生という扱いだが本当は最初からここにいる。なのにクラスメート全員の名前もあやふやなのだ。そんな俺の性格を知りながらそんなことを言ってくるということは、相手がかなり有名人だということだ。

「あいつは戸田暁生(アキオ)、うちの生徒会の書記だよ」



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