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ストレンジ・デイズ



汚いと言われたのがちょっとショックだったので、俺は念入りに体を洗った。おかげで男のくせに風呂に30分以上もかけてしまったけど、これで完璧に綺麗になったはずだ。
風呂から上がった俺は洗面所の鏡で自分の姿を確認してみた。顔をまともに見るのは昨夜ぶりだ。真宮邸を出てからずっと俺の顔は眼鏡と前髪で隠れていた。

俺はびちゃびちゃの髪にタオルをかぶせて、上半身は裸のまま居間の方に顔を出した。

「東海林さん、ドライヤーどこですか?」

こういう時、自分の長い髪がうっとうしくなる。でも顔を隠すためには髪は必要不可欠だ。でもほんとは、東海林さんぐらい短くしたい。

「ああ、それならこっちの部屋に…」

テレビを見ていたらしい東海林さんが、俺の声に反応してこちらを振り返る。だが彼は急に、その場で石になったように固まってしまった。

「どうしたんですか」

「……お前、それ地顔か?」

「え? ええ」

東海林さんがおかしなことを言うもんだから、俺は頭にかぶっていたバスタオルをずらして肩にかけ、顔がよく見えるようにした。

「…………」

「東海林さん?」

口を開けたまま動こうとしない彼が心配になってきた。けれど俺が一歩近づいたとたん、東海林さんは真っ青になって慌てだす。

「だから近づくなって言ってんだろうが! 何回も言わせんな!」

「す、すみません」

頭を下げる俺を一睨みした東海林さんは、その場から立ち上がって数歩後ろに下がり腰をおろした。

「あのなあ、俺はたとえ相手がどんな顔をしていようと、人間は駄目なんだよ! 調子にのんなよ香月博美!」

「あ、俺の名前知ってるんですか?」

それがあまりに嬉しくて、前半部分のおかしな言動は全部吹っ飛んでしまった。

「理事長から聞いてる。お前のツレが命狙われててどーのこーのって話もな。でも俺は、一切協力するつもりはない。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ」

吐き捨てるようにそう言い放った東海林さんは、俺を威嚇するように睨んできた。その姿はまるでヤマネコのようだ。

「普通なら、居候させるってだけでお断りだ。でも理事長には恩があるから…」

「恩?」

あぐらをかいた東海林さんは俺をちらっと見上げて頷いた。

「理事長の青雲さんは俺のじいさんの弟なんだ。じいさんが死んでから、理事長は俺をここで雇ってくれた。あの人がいなきゃ、俺はずっと仕事の出来ない引きこもりのままだったんだ」

理事長に心の底から感謝してることが伝わってくる言い方だった。俺が彼と理事長のちょっといい話に感動していたとき、東海林さんが決意したような目で俺を見てきた。

「だから俺は、理事長のいうこときくべきだと思う。最初お前が来たときは絶対無理だと思ったけど…まあ風呂入ったらちょっとは汚れも消えてるし…」

「じゃあ俺、ここに寝泊まりしてもいいんですか!?」

「あ、ああ。俺の半径1メートル以内に近づいてこな─」

「ありがとうございます! 東海林さん!」

俺は喜びのあまり彼に駆け寄り抱きついた。

「ぎゃあああ触るなっつってんだろーが!」

俺はすぐさま東海林さんに腹を殴られたが、彼に対する感謝が消えることはなかった。


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あきゅろす。
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