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ストレンジ・デイズ
□阿佐ヶ丘 唄子


転校してから、俺は特に何も変わらずに生活している。それはつまり、意識して小宮今日子とは別人のように振るまったりしてないということだ。転校初日から緊張もせず慣れた様子で過ごす姿は異様だったかもしれないが、それは俺があの小宮今日子のイトコだからだと周りは納得しているようだった。そして俺は男になった今も、変わらず唄子とつるんでいた。


「唄子、どこ行くんだよ」

休み時間、突然席から立ち上がる唄子に訊ねる。以前はどこに行くにも俺を一人にしないようにくっついていたが、今では完全に放置だ。

「どこって、トイレだけど」

「あ、じゃあ俺も行く」

前は俺がトイレに行くときは必ずついてきていたので、毎回連れション状態だった。以前のように唄子につられて女子トイレに入らないように気を付けなければ。

「はー? ちょっといい加減気持ち悪いんだけど」

俺達のやりとりを聞いていたおかっぱ頭の小さい女にそんなことを言われ、俺はむっとして振り返る。奴の名前は柊芽々。以前は俺をお姉様だのなんだのと慕い鬱陶しいほど崇拝してきたくせに、男になった途端冷たい態度をとられている。

「いくら付き合ってるからって、トイレにまでついてこられちゃ唄子ちゃん可哀想〜」

「付き合ってねーよ!」

「だったら四六時中べったりするのやめたら? ね、あんずちゃん」

話をふられた丸山あんずが頷く。眼鏡でみつあみの大人しい女で小宮今日子だった時も数えるほどしか話したことはない女だ。

「う、唄子ちゃんは今日子ちゃんと付き合ってるんだから、変なちょっかいかけないでください…!」

「は!? 何だそれ初耳だぞ。変な妄想すんのヤメロこのメガネ…」

「キョウちゃん! いいからもう行くよ!」

唄子にずるずる引きずられて教室を出る。俺はその手を振り払いポケットに手を突っ込みながら拗ねたまま廊下を歩く。そんな俺の様子を見て唄子が注意してきた。

「あんな凄んだりしたらあんずちゃん達が怖がっちゃうじゃない。もう女の子じゃないんだから気を付けてよ」

「…女だったときは、お前が俺の横にずーっとはりついてても何も言われなかったのに、男だと気持ち悪いだのなんだの罵倒されなきゃならねーんだ。何故か周りにはお前と付き合ってるとか思われてるし。否定しまくってんのに意味わかんねぇ」

俺はこれまでと同じように過ごしてるが、周りの態度が以前とは明らかに違う。前は注目され過ぎてて面倒なくらいだったが、今は誰も俺に興味などない。転校生で小宮今日子のイトコだということで一時期騒がれたが、現在はただの唄子の彼氏扱いだ。

「そりゃまあ美少女の時とは違うでしょ。もう前みたいに狙われることもないし、あたしと常に一緒にいる必要なんかないよ。好きに男友達作ればいーじゃん」

「………ない」

「へ?」

「…友達の作り方、わかんない」

「そこ!? そこからなの? 前はたくさんいたじゃない」

「下心ありきの奴ばっかりな!」

前は顔が美少女だったのでちょっと歩けばすぐに声をかけられた。誰も俺を放ってなどおかなかったので、今とはまったく違うのだ。

「でもほら、八十島君とは普通に仲良くしてたし、もう一回話しかけてみたら?」

「あいつは……いっつも色んな奴らに囲まれてるしさぁ」

善には最初、音信不通になった小宮今日子の連絡先を聞かれて断固拒否してからというものの、何の接触もなくなっていた。諦めが良いのはよい事だが、このままでは仲良くなれそうもない。

「大丈夫! キョウちゃんずっと八十島君と仲良しだったし、すぐまた友達になれるよ。八十島君の興味ありそうな話題をふってみたらどう?」

「お、俺が…?」

「他に誰がいんのよ。例えばサッカーの話とか。サッカー一緒にやろうよ〜! って誘えば八十島君ならすぐ受け入れてくれるでしょ」

「そ、そうかな」

「そうよ! 応援するから頑張って!」

善がいい奴だということはわかっているのだから、本当はもっと積極的にこちらから話しかけられたはずだ。しかしなんとなく、善が今までとは別人のように見えて声をかけられなかった。表向きは何も変わらないのだが、確かに前までの善とは微妙に違うのだ。

そんなこともあってなかなか善との距離が縮まらなくてやきもきしていたが、自分で動かなければ確かに何も始まらない。唄子もたまには良いアドバイスをしてくれる。

「何か、ありがとな。色々考えてくれて」

「いいってことよ、だってあたしとしても善×キョウちゃんの絡みをもっと見てたいんだもん。キョウちゃん総受け主義は今でも変わってないから」

「お礼言ったの撤回して良い?」

唄子は相変わらず唄子だった。こいつを喜ばせることになるのは癪だが、何とか善と元のような関係に戻りたかった俺はすぐにでも善に話しかけようと決めた。


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