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ストレンジ・デイズ



その日、俺は最神学園にいた。あれから数週間後、俺はもう小宮今日子ではなかった。カツラもつけていないし、もちろん化粧もしていない。俺は真宮響介としてここにきていたのだ。


「まさか、小宮のイトコがここに転入してくるとはな…」

俺と連れだって歩く担任の藤堂が俺を見ながらそんなことを言う。そう、俺は香月が祐司を説得してくれたおかげで再びこの学校に通えることになったのだ。今度は変装なしの男の姿で。建前上、俺は小宮今日子の親戚ということにした。顔は全然違うが、声はほぼ一緒だ。親族だということにしておいた方が何かと都合が良い。

「小宮はあれからどうしてるんだ。……元気にしてるか?」

「あ、はい。外国で楽しく過ごしてるみたいです」

表向きは頭のいかれたストーカーに殺されかけたことになった小宮今日子は、傷ついた心を癒すために海外へ引っ越したということになった。人と接するのが怖くなり、友人の誰とも連絡をとれなくなったということにすれば突然消えた説明もつく。これは、俺がここに再び通うにあたって香月と決めたことだ。

「なら良かった。あの事件は学校の責任だからな。小宮には会って謝りたかったんだが……」

相変わらず見た目のわりに律儀な担任だ。だが元はといえばこちらがこの学校を巻き込んだのだ。担任のこいつにはあまり責任を感じないでほしい。

「いえ、安全のために避難させただけで、今日子自身はけろっとしてますよ。あいつがあれくらいでめげるような女だと思いますか?」

「ははっ」

俺の言葉に藤堂が笑う。か弱いとはお世辞にもいえない小宮今日子の事を思い出しているのだろう。

「最初はあんまり似てないと思ったけど、話すと小宮の面影があるな」

「そうですか?」

「ああ。あいつの百倍は礼儀正しいけどな。でもいなくなったら寂しいもんだ。お、ついたぞ。ここだ」

勝手知ったる自分のクラスに到着して、俺は懐かしくてたまらなくなった。それほど長い間離れていたわけでもないのに、なぜこんな郷愁を覚えるのか。

担任、藤堂と共に教室に足を踏み入れる。クラス全員の視線が俺に注がれた。同じA組に入れてもらえたので全員よく知る顔だ。唄子は俺に小さく手を振ったが、他のクラスメートが俺に気がつく様子はない。あれだけ俺の事を追いかけ回していた変態ナルシスト鬼頭と、変態女柊の顔は冷めきっていた。まあこいつらはどうでもいいというか、興味持たれない方が都合が良いのだが。

そしてそのままA組の副担任をやっている香月は俺の事を心配そうに見守っていた。ちなみに香月は今は本名で教師をやっていて、あのへんてこな変装もしていない。家庭の事情で名字が山田から香月に変わったことにしたそうだ。しかしそれなら本来、香月和希という可哀想なネーミングになるはずだが、誰も下の名前をちゃんと覚えていなかったせいか香月博美という最早全然違う名前になっていても特に誰にも突っ込まれなかったらしい。

地味に生活していたおかげかもしれないが、今の美形の顔をオープンにしている香月では色んな意味で注目されてしまいそうだ。
あんまり見つめあっているのもおかしな話なのですぐに目をそらしたが、側に香月がいるというだけで安心できるし無理してでもここにもう一度来られて良かったとも思える。

しかしここに戻るには色々と条件があった。ちゃんと試験をパスして入学したわけではないので、この一年で編入試験に合格できなければ俺は二年に上がることはできず、ここを追い出される。それが約束だ。香月と唄子に協力してもらって合格するのが目標だが、正直今のままでは厳しいところだ。

この先くるであろう苦労には頭が痛いが、この学校にしかもA組のままで入り直せたのは奇跡に近い。小宮今日子だったと気づかれないように、再びこの学校にうまくとけ込まなければ。

そして俺が一番気になっていた友人、八十島善の姿を見つけついまじまじと見つめてしまう。あれから何度も連絡があったのに一方的に別れだけを告げて消えてしまったのだ。今すぐにごめんと謝りながら泣きつきたいくらいだ。

「真宮? どうした?」

「いえ、何でも……」

泣きそうになる顔を手のひらで押さえつけ平常心を保つ。善! などと叫んで抱きついていったらすべてが台無しだ。

「えー、急ではあるがこのクラスに新しいクラスメートが増えた。慣れないことばかりだろうから、みな助けてやるように。真宮、簡単に自己紹介しろ」

「はい」

いままでバッチリメイクしていただけに、ここで素顔をさらしていることになんともいえない不安はあるものの、もう嘘をつかなくていいと思うとほっとする。チョークで「真宮響介」と黒板に書く。そういえば、結局小宮今日子はこのクラスで自己紹介をしていなかった。
俺は小さく深呼吸して、大きく口を開いた。

「はじめまして、真宮響介といいます。これからよろしくお願いします!」




おしまい
2018/8/19

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