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ストレンジ・デイズ



俺は病室を出た後、心配そうに待っていた香月に話は終わったと目で合図する。俺の半歩後ろからついてきて俺の話を聞きたそうにしているのがわかったので、少し悩んでから口を開いた。

「夏川は、俺のこと諦めるって。好きとか、色々言われてたけど冗談だと思って取り合ってなかったし、それで香月にも…心配かけたよな。悪かったよ」

「……いえ、そんなことはいいんです。俺は……」

俺が歩きながら振り向くと思い詰めた表情の香月が見えた。まだ責任を感じてるのかと叱ろうとした時、こちらの目をしっかり見てはっきりとこう言った。

「俺はずっと響介様が好きでした。でもそれはずっと言わないでおくつもりだったんです。あなたが大好きな人と結婚して、幸せな家庭を作るのをすぐ側で見ていたかった。旦那様を裏切るような事をする勇気はなかったですし、俺が想いを告げてあなたが幸せになれるとも思えなかった」

香月の声が震えている。やっぱりつき合えないなんて言ってきたらぶん殴ってやろうと拳を握りしめる。

「あなたが僕の想いに答えてくれてからも、これでいいのかと悩みました。けど、響介様が目の前で殺されそうになって、目の前が真っ暗になって、自分が悩んでいたことがどんなに馬鹿げていたか、ようやくわかったんです…」

「……」

エレベーターの前まで来た俺の足が止まる。香月が泣きそうな目をして俺を見つめていた。

「あなたが好きです。響介様は俺のすべてです。何者にも代えがたい、大切な方です。だからこれからもずっと側にいて下さい」

「香月……」

そんなの当たり前だろう、と香月を抱き締めようとした時、突然深く頭を下げた。

「そしてその上で、お話ししなければはらないことがありますっ。実は俺、あの学校に響介様が通う前からこっそりあなたに……」

「俺に……?」

「響介様が、寝ている間に…その…キスしたりとか、勝手に触ったりとか、してたんです……!」

「……は?」

「すみません! やってはいけないことだとはわかってたんですが、自分の欲望に負けて、本当に申し訳ございません…!」

「なんだよ、そんなことか」

「え」

「別にいいよそれくらい。…いや、同意がないから良くないのか? いやまあ、今となっちゃ俺達付き合ってんだからいいだろ」

何をそんなに必死になって謝ってるのかとのんびり答える俺に、恐る恐る顔を上げた香月はぽかんと口を開けた間抜け面を晒していた。

「何だよ、俺がそんなことで今更怒るとでも思ったのか? それより俺を無駄に不安にさせたことを謝れよ。真面目な顔するからもっと深刻な話かと思ったわ」

「いえ、…俺の中では深刻なことだったので……」

「そんなの、むしろほっとしたっつーの。だって俺お前が、女装した俺が好きなだけなのかもとか思ってたし…」

「え!? いやいや! それだけはないですって! そりゃあの姿は可愛いかったですけど、それはベースが響介様だからであって…」

「わかったわかった、変な勘繰りした俺が悪かったよ」

否定する香月があまりに必死なのがおかしくて少し笑ってしまう。いつも隙がないのに俺の事になると必死になる香月が可愛くて仕方ない。

「ほんとですよ、俺。もし不安なら怜悧様にきいてみてください」

「は? なんで怜悧?」

「怜悧様には、俺の気持ちがバレていたので……あとひびき様にも」

「いやいや俺からするとそっちの話のが衝撃的なんだけど! まさか他にも知られてるんじゃねぇだろうな」

「えっと……俺達が付き合ってること、唄子さんにはおしえています……」

「はあああ!?」

「う、唄子さんは俺の片想いをずっと応援してくれてたんです。話さないわけにはいかないじゃないですか」

「いやその前に何でお前そんなたくさんの奴にバレてるんだよ!」

「多分、俺がわかりやすい人間だからかと……」

「はあああ……」

深く深くため息をつき項垂れる俺に香月はたじたじだった。でも俺が何よりショックだったのは、そんなにわかりやすい香月の気持ちに当事者の俺が気づいてなかった事だ。

「響介様、すみませんでした」

「……別に怒ってない。お前がほっとけない奴だってのが、わかっただけだよ」

周りに誰もいなくて良かった。エレベーターに入ると、しゅんとしている香月の頭を撫でた。

「そういや、俺が転校してもお前はあの学校に残らなきゃいけないんだよな」

「はい…一年は絶対に勤めなければなりません」

「はぁ…。置いてけねぇよお前の事。心配で眠れそうにねぇもん」

香月は天然なところがあるから、他の男からの好意にも気づかない。男前で優しいからきっとこれからあの学校でモテまくるだろう。よくわからない男と同居してるってのも気に入らないし、あからさまに香月を狙ってる野郎もいる。

「俺、転校したくねぇ。お前と少しでも一緒にいたい」

ずっと思ってたことだが、今はじめて口にできた。せっかくできた友達と離れたくないが、それはまだ仕方ないことだと我慢できる。でもいざというとき香月を守れないのは困る。

「響介様、一つ俺に考えがあります」

項垂れる俺に香月が笑顔でそんなことを言う。密室なことをいいことに俺の手を握りながらキスまでしてきた。そして自分の計画を俺に話してくれた。


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