ストレンジ・デイズ
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「響介とちょっと、二人で話したいんだけど」
俺達がようやく落ち着いてから夏川にそう言われて、香月と顔を見合わせる。香月は難しい顔をしてしばらく頭を抱えていたが、しばらくして頷いた。
「あなたは響介様と俺の恩人です。席をはずしましょう」
香月はここから出ていく前に俺に「何かあればすぐ叫んでください」と耳打ちしていった。あいつは夏川を何だと思っているのか。百パーセント何もないとは言い切れないのも正直なところだが。
香月がいなくなって、病室には俺と夏川だけになる。腕を組んで仁王立ちになった俺を見て、奴は笑っていた。
「そんな警戒すんなよ。もっとこっち来い」
「別に話ならこの距離でもできるだろ」
「ははっ。俺はもうお前からこっぴどく振られてんだから、今更何もしねぇって」
「え……」
「食堂で、あの先生以外と付き合う気なんかないって大声で宣言しただろ」
色々あって忘れていたがそういえばそんなことを言ったか。今思い返せば相当恥ずかしい告白だった。
「良かったじゃねえか」
「え?」
「あの先生、お前を守りたくてこの学校に居させようとしてたんだろ。心配して損だったな」
元々お前が女装した俺目当てだとかいって不安を煽ったんだろうがと思ったが、何も言わないでおく。確かにこれで香月の行動にも説明がつく。
「俺はもうお前とキスできたし、潔く諦めてやるよ」
「あっ! あー! お前、あの時どさくさに紛れて…!」
怒りにまかせて奴に近づくと腕をそっと撫でるように捕まれる。すぐに手を振り払い後退した。やっぱりこの男、油断ならない。
「今更怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜ」
「可愛いって……目ん玉腐ってんじゃねえの」
今の俺は女装もしていない。ただのどこにでもいそうな男だ。これを可愛いなんて思う奴なんかいないはずだ。
「俺はお前の見た目が気に入ったわけじゃねぇんだから。好きな奴が可愛く見えるのは当然だろ」
「……」
「そんな目で見るなよ。諦めるっつったろ。だから俺たち、友達になろうぜ」
「友達……?」
「ああ」
俺達が今更友達なんて関係になる事は想像できないが、命の恩人を拒絶できるわけもなく。こいつとは色々あったが、総合的に見て悪いやつじゃないのはわかる。俺は夏川が出した手を、渋々ながらも握り返した。
「で、響介はこれからどうするんだ。学校はやめるんだろ」
「それは、そうだけど…」
「俺はお前の正体を知ってるからな。お前が学校やめても会えるけど、そうじゃない連中のが多いだろ。そいつらとはもう、縁を切るしかないわけだ」
それは俺がずっと考えないようにしていたことだ。あの学校の奴らとはもうこれでお別れ。そう思うとつらい。認めたくないが、とてもつらかったのだ。それなのに、夏川はどこか嬉しそうだ。
「何笑ってんだよ」
「え? いや、ライバル減るだろうからラッキーだなーって」
「お前、たったいま諦めるっつっただろ」
「あ、そうそう。そうだったわ」
軽い調子でそんなのことを言う夏川にだんだん不安になってくる。この口先だけの男の前では絶対油断しないようにしよう、と心密かに思った。
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