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ストレンジ・デイズ



その後俺は学校に戻ることはなく、久しぶりの実家へと帰った。事件を知った怜悧は俺から離れようとせず涙目になったまま引っ付いていた。家に出禁になっている兄はともかく、俺の安否を確認すると帰国する気もさらさらなかった母親とは比べるまでもなく天使だ。もう俺を狙う奴はいない。ここで怜悧と一緒に暮らすことができる。それは嬉しいことのはずなのに、なぜか素直に喜ぶことができなかった。

その後唄子と連絡を取り、お互い怪我もなく無事であることを伝えあった。警察の事情聴取があるので学校には戻れていないが、向こうは前代未聞の事件に大騒ぎになっているらしい。夏川が無事だという連絡は入っているものの、心配する生徒達をなだめるのに先生達が必死になっていると唄子は柊から聞いたそうだ。
もちろん俺の携帯には学校の奴らからの着信が絶えず入っていたが、俺はまだその電話に出ることができずにいた。


次の日、俺は香月とともに夏川のお見舞いに病院に向かった。今日は父親に持たされた手土産付きだ。警察の事情聴取から戻った香月はもっと疲れていてもおかしくないのに俺以上にピンピンしている。休んでいて良いと言ったのだが、見舞いには付き添うといってきかなかった。


「ああ、警察なら俺のところにも来たぜ」

病室で退屈そうにしていた夏川に香月が受けた長時間の事情聴取のことを話すと笑いながらそう言った。夏川にまで接触してるなら当然俺だって警察に話を訊かれるはずだが、いまだ何もない。

「俺のとこには来ないのか…?」

「響介様の分は俺が受けましたので、必要ありません」

「そうなの? それでいいもんなのか」

「本来はダメですけど、響介様は特別です。女装して通ってるのが警察にバレると困るので免除してもらえるよう細工したんです、旦那様が」

「……」

「お前の父親、仕事が早いな」

絶句する俺に夏川が笑ってそんなことを言う。しかし祐司のおかげで助かったのも事実だ。女として学校に通ってるのがバレたら別の事情聴取が始まりかねない。

「それでですね、警察に色々話を聞いてきたんですが」

「話?」

「あの男のことですよ。あなたを狙っていた」

香月が憎々しげに吐き捨てる。俺も夏川や唄子まで危険にさらしたアイツは許せない。

「なに? 無期懲役になった?」

「それはまだです。なぜあの男が響介様の居場所を特定できたか知りたかったんですよ。何せ女装してる事まで把握済みでしたからね」

「確かにお前、完全に別人だもんな」

夏川が俺の顔を見ながらしみじみ言う。ちなみに今日は女装せず、男の姿のままだ。

「この学校にいるということは、案の定樽岸君からもれてました。同窓会でしゃべってしまったらしいので」

遊貴先輩から、ということは俺が原因だ。居たたまれない。

「そ、それは…仕方ねぇだろ。そんなにヤバい状況だって知らなかったんだから」

「しかし当然学校に響介様の名前はなく、偽名を使ってると思った田山は人を雇って調べさせてたそうです。そしてそれが、あの移動パン屋のアルバイトだったらしく…」

「え!? うそっ」

香月が愛用していたパン屋のバイト、ときいても誰一人顔を覚えていないのだが。まさかそんな近くにスパイがいたとは。

「そいつは見つかったのか…?」

「バイトはもうやめているそうで、恐らくなにも知らない一般人が小遣い稼ぎにやった事でしょう。この学校に入る人間の身元は調べていましたつもりでしたが……しかし、もっと入念にするべきでしたね…」

「そこまではお前でも無理だろ。でもそいつ、よく俺が男だって見抜いたな。話した覚えすらねぇのに」

「響介、と貴方が呼ばれていたのをたまたま聞いたそうですよ」

「ええ? 誰に? そんなことあったか?」

「それもまあ…樽岸君でしょう。俺には覚えがありますし…すべてを把握していた俺がもっと気を付けておくべきでした。…すみません」

香月は深く深くため息をついて頭を下げる。こいつは悪くないのに、あの事件の事で相当自分を責めているらしい。

「向こうがこちらを見つけるのと同時期に、旦那様も田山を見つけました。あと少しで奴を捕まえられそうだったのですが、それに気づいた向こうが捨て身で学校で侵入してきたんです」

「ああ、それであんな計画性の欠片もない襲撃だったのか」

「そのおかげで俺も早く気づくことができましたが、結果こうなってしまって…本当に申し訳なく……」

「だからそれはいいって! もう謝るなよ!」

ひたすら平謝りの香月につい声を荒らげる。俺だけじゃなく夏川に向けられたものかもしれないが、香月がいつまでも気にして落ち込んでる姿を見るのは嫌だった。


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